港にて

海辺にはすぐにでも行ける
海辺の街にはどこにでも港があり
わたしは港をぶらっと訪ねるのが好きだ

「出口の貌」を見せる港
今日も貨物船は停泊し
くすんだ艦首の原色の塗料は
老いさらばえた獣の横顔のようでもある
だらんとした鬣
凪いだ海
凪いだ海の虹色のオイルの曖昧さ
その「出口」じゃないんだよ

入り口ならいくつもあって
わたしはそのうちのどれかひとつの港から上陸したのだが
足の裏の白いタイル……
記憶はきわめて曖昧で
そんなことは別にどうでもよくて
ここにこうしているしかないという真実だけが重要で
真実といっても「帽子の霧」とともにあり……
                     
製粉工場の銀色のタンクは
遍満たる陽を浴びている
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夜の街で

灯りの色の混じる夜
人通りの多い橋を渡り終え
さらにつづく下り坂をせかされるように歩くと
流れをさえぎるようにあの女
十年以上前には頻繁にあっていたあの女が
誰かを待ち受けるように
人の流れをさえぎって流れの中に立っていた

女の目はあやしく見開かれた
私を発見したことによって見開かれるのを
私はうごきかけた追慕の情とともに見守った
女の腕が何らかの動作をしたのかわからない
鞄の中から何かを取り出そうとしてあわてて途中でやめたのか
鞄などは持っていなかったが

急に女の目は私のうしろから近づきつつあった存在に移った
夜目にも青年とわかるその人の腕をさわると
女は安心したようにその人を連れて行った
窓灯りがちらほら無秩序に点る
向こう岸にそびえるような大きなマンションの
こちらには斜めに背を向けたエントランスに消えた
もはや私のことなど忘れ去ったのだろう
安心して忘れ去ったのだろう
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固着

「真正の太陽」が
いつもわたしの腹のなかにあり
今も冷たく育つ
ときには後ろ向きで餌をやる
風がひと刷毛巻きあげると
無関係なカーテンが空でひるがえり
大またを開く「真正の太陽」
蟻が這いまわるひび割れた地がうるおい
さらに水が撒かれ
ダチョウの卵が均衡をたもって中心に立つ
わたしは自身さえ知らない
得体の知れない顔をしているのか
犯罪者予備軍?
けれど秘密は保たねばならぬ
墓場まで運ばなくてはならぬ
「真正の太陽」との親和性
その堕落のありかを鑿を打ち込んで探りたいが
まだまだ日々は遠巻きにするばかりだ
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