大洋ボート

サイドカーに犬

 母よりも少し若い女性へのあこがれを子供が抱く。その純粋さ、ぼんやりしてはいるが、やがて切々とした感情に結晶する。その女の子(薫)の内面の変化と成長がたいへんうつくしく、じんわりと描かれている。若い女性の竹内結子も女の子と仲良くなろうとして一生懸命だ。だが打算的なところはない。見てくれを気にしないざっくばらんさで、つとめて明るくふるまう。しかし最後まで、よそゆきの気分を脱ぎ捨てられない。そんな竹内もうつくしい。

 夫婦関係がこじれて母が家出をする。その直前、スーツ姿でその身支度を整えた母が、あわただしくせっせとコンロを磨いて几帳面さを見せる。やがて何日も経ないうちに、家事の世話を父に頼まれた竹内結子が自転車で毎日通ってくるようになる。パンツからシャツを出して、ロングヘアーもあまり整えないというラフさ。この母と竹内の対照的な外見を短く表現するところが、子供の視線とも重なって引き寄せられる。竹内(洋子)は父の愛人らしく、父との結婚も視野にある。だが子供にとっては、はじめからそんなことがわかるわけもない。

 子供は家庭内のゴタゴタを処理することができない。現実を選び取ることができない存在だ。父母という大人が選んだ現実を受け入れるしかない。そして変化してしまった現実になじもうとする。できるだけ大人の言いつけに忠実になろうとする。寂しいかもしれないが、当面はそうするしかない。こういう子供の内面を子役の松本花奈が、さもありなんという具合にうまく表現している。笑顔をほとんど見せない、だがすねる風でもなく、目の前の大人をおかっぱ頭からのぞく瞳でまっすぐに見つめる。巧みというよりもハマッタというべきだろう。そして幸福なことに、女の子は竹内結子に快適についていく。自転車の操縦を教えてもらったり、一緒に旅行もする。遊びながら仲良くなる。お互いに長く一緒にいても決して苦痛ではない、むしろそうありたいと思うようにまでなる。だがそのときには既に竹内結子は別れをひそかに決断している。「好きな人を嫌いになるって、むつかしいことね。」と竹内は女の子に言う。「好きな人」とは目の前の女の子のことだ。また父もふくまれるのかもしれない。間接話法だが、女の子に通じたのだろうか。

 父は脱サラをして自動車売買の仕事を始めたのだが、なかなかうまく行かない。それがトラブルの因となって母は家出したようだ。だが、どうなりこうなり商売が軌道に乗り出したとき、母が帰ってくる。夫婦間で、父と竹内との間で話し合われたのだろうが、映画はそこはハショる。あくまで子供の視線から描くということで、根岸吉太郎監督はまったく当然の処理をしている。母の家出も戻りも子供にとっては「突然」なのだ。

 女の子の前で母と竹内は激突する。平手を食らわす母。竹内はこれに頭突きで応戦する。「やったあ!」と私は痛快に思った。だが悲しいことに、その場所を去らねばならないのは、当然ながら竹内結子のほうだ。そしてこの場面は直後の場面に引きずられる。女の子と弟と父と従業員が仕事場の広場で遊ぶとき、女の子はなんと父に何回も頭突きを食らわして、父を狼狽させるのだ。じゃれるのではない。女の子はちゃんと見ていた、そうして竹内の意思を引き継ぐのだ。「なぜ洋子さんを引き止めなかったの?」という子供の父への非難、その万感の思いが頭突きには込められている。なんともやるせない。女の子は涙なんか見せない。むしろ視聴者のほうが、じわーっとした涙にからみとられる。

 もうひとつ、ダメ押しするように心が動かされる場面がある。20年経って弟と彼の結婚式の打ち合わせをしていたとき、竹内結子についてのある事実を弟から知らされる。それを知って薫(ミムラ=成人した女の子)は、さっそく行動をとる。詳述しないが、ここもいい。「洋子さん」は薫の心に確実に刻まれていた。
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監督 根岸吉太郎 出演 竹内結子、松本花奈、古田新太 根岸吉太郎の演出力を実感できる傑作。映画以外にはありえない絶妙の人間描写、空間把握にただただ驚く。 大人の世界をふと覗いてしまった少女(小学4年)の、ある夏休み。 このころの子どもというのは大人の世界 2007.07.09 12:55
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