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ジェームズ・ライゼン『戦争大統領』

戦争大統領―CIAとブッシュ政権の秘密 戦争大統領―CIAとブッシュ政権の秘密
ジェームズ ライゼン (2006/09)
毎日新聞社

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 著者はニューヨーク・タイムズの記者。豊富な取材活動によって、2001年9月11日の同時多発テロ以降の、ブッシュ政権の戦争政策を批判的にあぶり出している。政権内部の力関係や、それにもとづく政策決定過程の見取り図がたいへん興味深い。

 それによると、アフガン侵攻からイラク戦争までの戦争遂行を主導的に推し進めた人はラムズフェルド国防長官である。彼の側近であり、ネオコンの主要イデオローグといわれるウォルフォウィッツ国防副長官、チェイニー副大統領らとスクラムを組んで、政府内の反対派や懐疑派、穏健派の意見を排除していった。中道主義者といわれるパウエル国務長官(ブッシュ政権第一期)の政治力は無力化された。またコンドリーザ・ライス国務長官(ブッシュ政権第一期では国家安全保障問題担当大統領補佐官)は大統領とラムズフェルドとの間の調整役を期待されたが、それらしい活躍は皆無に近かったという。そして、ラムズフェルドらは政策決定過程の迅速化に成功した。各省庁やら議会、大企業、さらには主要な外国 まで気遣っての根回しと利害調整が、それまでのアメリカ政府の政策決定の伝統的な方法だったが、大部分無視され、独裁的ともいえるやり方で戦争が推進された。情報収集の一元的支配にもラムズフェルドは成功したという。軍事関連情報は軍、CIAをはじめとして複数の機関に跨っているそうだ。

 なかでもこの本のなかで一番やり玉にあげられているのがCIA長官のテネットである。ライゼンによれば、彼はみずからの政府高官の地位を長引かせたいがために、ラムズフェルドに意見の具申らしいことはしなかった。CIAは諜報機関だからCIAなりの情報分析と識見を有しており、特にラムズフェルド一派のイラクへの予断的分析には懐疑的であったが、何も言わなかった。このことはCIAの多くの上層部職員を落胆させ、士気を低下させたそうだ。ラムズフェルド派は亡命イラク人組織INC(イラク国民会議)のアフメド・チャラビを厚遇した。また、イスラエルの諜報組織モサドの情報も欲しがった。いずれもが、イラクの大量破壊兵器所持の推測に肩入れしていたのだが、CIA上層部は両者に対してともに低い信用しか置いていなかった。だが、テネットはその問題について、ラムズフェルド派に注意を喚起するどころか、テネット自身もまた、CIA内での孤立を怖れることなく、あろうことか大量破壊兵器所持という予断を支持する側に回ってしまった。(イラク戦争の前年の2002年にCIAは大急ぎで、イラク人科学者の親戚をスパイに仕立ててイラクに送り込んだが、大量破壊兵器の所持、生産の証拠は無かった。否定的な材料がすべてだった。だがテネットはその立場をとらなかった)

 イラク戦争の大義名分は、イラクによる「大量破壊兵器の所持」であり、フセインごとそれを排除することであったが、今日では大量破壊兵器など無かったことが明らかになっている。だが、ラムズフェルド派は自分たちの先入見に異常なほどこだわった。これは何故だろうか、本書を読んでもピンと来ないところだ。彼等が自分たちの推測にほんとうに自信を持っていたのか、それとも大量破壊兵器はイラク戦争を始めるにあたっての口実に過ぎなかったのか、また第二の9.11を怖れるあまり冷静さを欠いていたのか、早晩崩壊するであろうイラク地域の権力の空白を怖れたのか、またそれを例えば隣国イランへ地理的に圧力をかけるためのチャンスと見たのか、ラムズフェルド派の心のなかを標的にして、私のシロウト推測は駆けめぐる。
 
 ビン・ラディンとサダム・フセインとの結びつきもイラク戦争以前には取りざたされたが、それもどうやら無かった。さらにはイラクの戦後復興政策の構想をラムズフェルド派はなんら持ちあわせていなかった。そのためか、有能な行政手腕の持ち主であろうバース党幹部を大部分追放してしまったという。(これはシーア派対スンニ派の対立構図をアメリカみずからが用意してしまったに等しい)また、復興には民生向上のための援助物資が不可欠だが、ラムズフェルド派はそういうことに関しては不得手なのか、もっぱら軍事的手段(兵員と武器)の投入に執着した。アフガニスタンでも復興はおろそかにされて、その一方では、麻薬生産がタリバン支配以前にもまして激増したが、アメリカは見て見ぬふりをしているという。

 本書を読んで一番唖然とするのは、主役であるべきはずのジョージ・ブッシュ大統領に関する記述が異常に少ないことだ。ジェームズ・ライゼンは新聞社に属する人だから、推測の域を出ないことは軽々に書けないことはわかる。大統領その人に関する情報も入りにくいのかもしれない。イラクでの選挙実施に一番熱心だった人くらいの扱い方しかしていない。そこでまた私のシロウト推測は駆けめぐる。ブッシュはラムズフェルド派と同質の意見でありながら、政府内での汚れ役、面倒ごとの処理役を彼等に任せたのか、それとも逆に彼は無定見に近い人で、体裁良くラムズフェルド派に丸め込まれてしまって、スポークスマンに成り下がったのか。この辺もいずれ、つまびらかになる日が来るだろう。

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