大洋ボート

久保えーじ『世界まるごとギョーザの旅』

  ユーラシア大陸はトルコ、中国、ドイツ、アゼルバイジャン、ジョージア、韓国、ポーランド、スロバキア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスの計11か国をめぐる餃子を中心とした料理研究の旅の記録。単なる食リポートというものではない。著者の久保えーじ氏はレストラン「旅の食堂ととら亭」のオーナーで、日本でほとんど知られることのない外国の料理を、現地の味そのままにアレンジせずに自分の店で再現してお客さんに供するという。それも観光客相手のレストランではなく、下町の食堂で広くその国の庶民に食され愛好される料理にかぎられる。そのほうが現地の国(地域)の料理の固有性に忠実になれるからだ。勿論、久保氏夫妻が旨いと感じた料理にかぎってのみの研究・再現対象である。一品の料理に凝集された材料から調理方法までがリポートされ、推測される。味の記憶を確かにするために同じ料理を店を変えて何回も食する。文章はやわらかく読みやすくされているが、食への好奇心旺盛な人ならいざ知らず、そうでないわたしのような人間にとってはかなり専門的なレベルだ。
  餃子というと、わたしは日本で一般的な焼き餃子をもっとも食する。たまに水餃子もいただく。だが焼き餃子は世界的には少数派らしく、それも満州で食した日本人が日本に持ちかえった戦後以来急速に普及した。食に関しては保守的ではなく進取性に富む日本人だから、うまいと感じれば広がりも早い。明治以降の牛肉、戦後のパン、等々。だが、この本に接すると日本人のまだまだ知らない味が外国で君臨していることがわかる。
  小麦粉を水で練った生地を皮にして、なかに肉や野菜を入れて熱を加えたものを餃子と呼ぶにふさわしい。だが小籠包や雲呑とどう区別するのかは曖昧だ。小籠包は皮の肉厚がやや厚く、調理は蒸しにかぎられ、また雲呑はスープに入れるのが決まりということだろうか。だが餃子にかぎっても焼きもあれば、ゆで、蒸しもあり、皿に本体だけが乗せられたものもあり、スープに入っているものもあり、大きさも形もさまざまで、掲載写真をみると小籠包と区別がつかないものもあり、勿論、本書に沿っての肝心事である具材や調味料やタレも国、地域によって千差万別であり、とにかくバリエーション豊富で、餃子とひとくくりにすることが困難なくらいだ。
  いくつか紹介すると、トルコの餃子のマントゥ。<ラム肉を包んだゆで立ての水ギョーザにガーリック風味のヨーグルトとオレンジ色のパブリカバターがかかり、鮮やかな緑のフレッシュミントがちりばめられています。>さらに、スロバキアの餃子ヒロピー。<マッシュポテトを薄力粉で作った柔らかめの生地に包んでギョーザ形に整形してゆでたものに、ブリンゾベ(羊のチーズか・引用者)とサワークリーム、そしてベーコンの脂身のクルトンを添えていただく……いや、いただかねばならないのです!>久保氏によると、ヒロピーは読むからに脂肪分の多さがわかり、胃の不調がつづくさなかにやむなく食することになったので<いや、いただかねばならないのです!>となったそうだ。この二つ、わたしは食したことがないので味はわからない。カルボナーラが連想できるくらいだ。また餃子の皮が白ともかぎらないことがわかるのはポーランドのピエロギ。赤やらうす緑やらが白色の餃子にまじって皿にある。説明がないが、トウガラシやらハーブやらが粉に練りこまれているのだろうか。
  久保氏の洞察に感心した個所がある。ヨーロッパ人の胃袋のたくましさはわたしも聞いていて、その一人前の量は日本人にとってのそれの最低でも1,5倍はあると久保氏はいう。それに加えて料理に使用する油分の多さだ。これにはアジア人の主食の米とヨーロッパ人の主食のパンという違いからくる由来がある。米には塩分を添加する文化が古来からあり、一方のパンには油分を添加する文化がある。後に登場する麺類にもこの文化的先例が受け継がれて、前者ではラーメンなどの塩分の目立つ汁物となり、後者ではパスタなど油分や乳製品が多く、汁気の少ない調理法が主流となったのではないかと久保氏は記している。ヨーロッパ人の胃袋は量の面のみならず油分にも強く頑丈だということだ。
  記述は料理にかぎらない。旧ソ連圏の国々は社会主義から離脱したものの、底辺の庶民層に実施されていた平等政策が廃止されて所得格差が生じ、物乞いの姿が見られるようになったという。(例外があるかもしれないが)パックツアーではなく個人旅行ならではの苦労も記される。アゼルバイジャン入国のビザを取得するのに要する手続きの煩雑さ、ようやく降りるまでの日数の長さ。ウズベキスタンからカザフスタンへ移動するさいの税関や出国管理事務所の人の多さ。警官が少ない人数で、並んで待機する人々を監視するものの、日本人のように整然と列を作るのではなく、前へ前へ行こうとするからぎゅうぎゅう詰めになる。気温も高く、怒号も飛び交うなかでの立ちっぱなしの一時間。著者はふらふらになる。

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