とおい街

見知らぬ駅にきみは降り立つ
あの見覚えある膝の角度で
屋根のないプラットホームには西日がさし
きみのながい影が伸びる

あの女にこないだ会った
もうきみのことは忘れたと言ってうつむいたが
そのときの睫が寂しそうだった
私のなかで鳩がざわざわといっせいに飛び立った
たぶんあれは嘘だろう
あの女はずっときみのことを考えてきたのだし
これからもいくらかは落ち着いても
きみのことを多かれ少なかれ考えずにはいられないだろう

あの女がもっとも憎んだのは自分自身という牢獄
感情をどう立て直せばいいか
ばらばらになった鏡の破片で城をつくるというような
途方もない野望にとらえられていた
つまりはきみが最後に会った頃とさほどは変わらない
「愛される自信」「愛する自信」なんて言ってた
それに気がついたときあの女は君にものすごく接近していた

見知らぬ街へきみは歩みだす
あの見覚えある細い肩で
小さい街は駅前からほんの少し離れただけで仕舞た屋の並びで
すべての家に人が棲んでいるとも思えないひそけさ
きみが歩む道は影にすっかりひたされて
屋根瓦や四つ角ばかりが西日でやけに明るい
「海のない街にも港はあるさ」
きみがいつかそんな言葉でうそぶいたからには
大丈夫なんだろう

あの女のことは心配するな
とおい昔をふりかえるように
ときどき思い出してくれるだけで充分だ
私ができるだけのことをするから
話し相手にもなろうものさ
きみのながい影が当分の間
あの女の心臓にまでさしこんできて
食べようとして食べきれなかったとしても

22:56 | 自作詩 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
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