大洋ボート

ジャージー・ボーイズ

  楽しかった。映画館に頻繁に行ける時間がもてない身分だが、この楽しさは「スラムドッグ・ミリオネア」以来か。
  1960年代前半に大ヒットを連発したポップスグループ「ザ・フォーシーズンズ」の軌跡をベースにしたものの、たんに伝記性にとどまらない、わたしたちの人生にも共通する喜怒哀楽や波乱万丈が見事に定着されていて普遍性がある。長い人生が2時間弱の時間に凝縮されて、つぎつぎに予期せぬ出来事が到来し、はらはらさせて、観客は思い当たることが多くあって自分のことのようにスクリーンに入って行ける。
  彼等は若い頃から歌手志望でアマチュアバンドとして小さな舞台に立っていたが、マフィアとつながりのあるチンピラでもあった。強盗をはたらく場面があって、これがなかなかの見もの。深夜無人の店舗から大きなロッカーを盗み出したものの車の後部トランクに入りきらない、それに重いから車が後ろに傾いてしまい、かまわず逃走しようとするものの案の定捕まってしまう。ある者は刑務所行き、ある者は執行猶予となる。面白くおかしいこと、反社会的なことをやってみたくなる年頃だ。わたしは強盗はやらなかったが若い頃は同じような気分に支配されていたので何の抵抗もなくみられた。若い頃の環境と仲間意識がこういう行動をとらせる。それにこれは映画だということ、映画はハメを外すことが許され観客を喜ばせる。この導入部の出来事の表現がすぐれていて、もっと映画を見たい、もっと面白くなれという気分にさせる。
  最初3人だったグループだが、四人目のメンバーを誘うところも面白い。その男ボブは作曲ができるという評判で、出会ったときにピアノの弾き語りを3人に聴かせる場面。その歌声に見せられてリードボーカルのフランキーがバックコーラスを即興でつけると、ボブもたちまち気分よくなって歌いつづける。お互いの才能と素質を見抜きあう瞬間だ。歌い手同士の共感と盛り上がりとはこんな素晴らしいものかと納得させられる。ここで彼等は、歌手としての上昇のきっかけをつかんだのだろう、わたしたち観客も応援する姿勢にもっていかれる。そして最初のヒット曲「シェリー」をひっさげてのデビュー。フランキー・ヴァリ役のジョン・ロイド・ヤングの歌声が素晴らしい。実在のヴァリと似ているもののコピーなどではなくヤング自身の歌声だ。この歌声が魅了することによって「ザ・フォーシーズンズ」をなぞるという伝記性は超えられ、映画の「現在進行形」の心地よい緊張がさらに豊かになる。歌手をモデルにした映画は多数にのぼるが、俳優が元歌にあわせて口パクで歌うのだったら、これほどの盛り上がりは創れなかっただろう。歌いながらスタンドマイクをもってリズミカルに体を揺らすヴァリと3人。これもあらかじめ振り付けしたのではなく歌の心地よさから自然に派生した印象だ。歌がたんに仕事ではなく、それ以上に彼等は上昇と成功の真っ只中にいることが力強く表現されている。
  以後はさらなる成功とともにメンバー同士の確執やフランキーの家族の問題が浮上してくる。前者においてリーダー格のトムの金銭問題がクローズアップされるのだが、トム役の俳優の人相が少しずつ悪くなっていくのにも感心した。微妙にメイクや髪型をかえているのか、そうでないのかわからないが、とにかくもそうみえてしまって唸った。
  その他にも発見がある。アメリカの60年代というと、ケネディ大統領暗殺事件やベトナム戦争の泥沼化などの時代背景があるが、それらはとりあげられず、ことさら60年代を印象付けることはしない。当時の旧式の自動車を走らせる、これだけで「昔」であることがわかって簡潔だ。あとは画面の丸いモノクロテレビくらい。それにクリント・イーストウッド監督の俳優時代のポスターがほんの一瞬映されて喜ばせる。ナレーターの代わりに画面に向かって俳優が背景説明をするのも成功した工夫だ。最初はトムがその担当で、ずっと彼がするのかとおもわせておいて、4人組のほかのメンバーもそれをする。本作がはじめての工夫ではないかもしれないが。さらに最後の大団円ともいうべき出演者全員によるダメ押しの合唱。まだ歌を聴かせるのかといううんざり感はまったくなく、いいなと感じる以外ない。クリストファー・ウォーケンがダンスするのも憎い。このように、意外性が小さなものから大きなものまであって。つぎつぎに到来して観客を飽きさせない。中心部には勿論、歌の威力があって、苦難と不幸をのりこえていけそうな温もりがある。
   ★★★★★
関連記事
スポンサーサイト
    07:18 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
Comment







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://oceanic.blog70.fc2.com/tb.php/639-28ea569e
プロフィール

seha

Author:seha
FC2ブログへようこそ!

カレンダー(月別)
10 ≪│2017/11│≫ 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
最新の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
カテゴリー
月別アーカイブ
全ての記事を表示する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
ブロとも申請フォーム
ブロとも一覧
ブログ内検索
RSSフィード
リンク