大洋ボート

NO

  1988年、チリのピノチェト大統領は自らの信任投票を実施することになった。軍事独裁政権といわれた強権的な国家運営が支持国のアメリカなどから批判されたためである。投票日までの期間,支持派(YES派)と反対派(NO派)のあいだで激しい宣伝戦がくりひろげられる。両派は1日15分間のテレビCMの放映枠をあてがわれ、反対派に雇われたのが広告会社のガエル・ガルシア・ベルナル。妻が反ピノチェト派の活動家だったので無理もない。同じ広告会社には支持派もいて、CM制作において両派に分かれてしのぎをけずることになる。
  反対派がはじめに制作した見本CMは、政権のそれまでの苛酷で無慈悲な弾圧ぶりを喧伝するものであった。ニュースフィルムをバックにして、ナレーターが虐殺者、逮捕者、拷問者の人数を語る硬派的性格のものだった。ディレクター格のベルナルは異議をとなえて、明るくユーモアのある内容にしなければならないと説く。たとえば、中年夫婦がベッドにそろって居並んで、上半身を起こした状態でカメラに向いて、夫が妻に営みを迫ると妻は「NO」を連発する。すると夫は苛立ってやはり「NO」を連呼。ずいぶんくだけた中身に変えた。また虹と「NO」の文字を組み合わせたロゴマークも作る。それにたいして支持派はもっぱらピノチェトの偉大さを前面に押し出すというオーソドックスなもの。
  わたしは古いことだが、60年代の東京都知事選を思い出した。美濃部という人が初当選したが、そのときの選挙戦略が「イメージ選挙」といわれるもので、統一された明るい色の幟をもって、同じく統一されたユニホームの選挙運動員が風船などを手にして走りまわったと記憶している。詳しいことは忘れたが、こ難しい政策論議を回避して明るさとのんびり気分を演出したことが、美濃部の勝利につながったようだ。その後、「イメージ選挙」は保守・革新を問わず、ほとんどの選挙戦で模倣される。選挙戦が宣伝戦略としてはじめて位置づけられた選挙で、だからわたしのなかではこの映画のネタとしての新しさは、それほどではない。
  電子レンジが出てくる。またベルナルは小さなレールを走る鉄道模型を家庭で楽しむ。家電製品と奢侈品で、ピノチェトという人はクーデターで政権を奪取した軍人で、反対派にたいする弾圧にも遠慮がなかったようだが、このような「先進国化」も推進した人でもあり、その路線は国民も評価したのだろう。だが同時にピノチェトなしでもその路線は十分に推し進めることができると国民は踏んだのではないか。反対派の大規模な集会にピノチェトは危機感をつのらせて軍隊をつかって弾圧を試みる。またCMでは反対派のベッドでの夫婦のやりとりをまったく模倣したものをつくって、ただ「NO」の代わりに「YES」と言わせるものを流すが、まったくのちぐはぐぶりで、ここまでくると反対派の勝利は確定した観がある。
  はじけたところのない、真面目で地味な映画だ。
   ★★★
関連記事
スポンサーサイト
    08:03 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
Comment







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://oceanic.blog70.fc2.com/tb.php/636-b8bb7a22
プロフィール

seha

Author:seha
FC2ブログへようこそ!

カレンダー(月別)
05 ≪│2017/06│≫ 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
最新の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
カテゴリー
月別アーカイブ
全ての記事を表示する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
ブロとも申請フォーム
ブロとも一覧
ブログ内検索
RSSフィード
リンク