大洋ボート

渇き。

  役所広司を安心して見ていられた。後半を超えるあたりまで、エンジン全開のようでありながら実は余力を保ちながらの7,8割くらいの力の入れようだった。テレビCMで見られるコメディアン的要素もかいま見られる気もした。最初から力が入りすぎると、役所は出ずっぱりだから鑑賞者は疲れるし飽きも出てくる。その辺の計算が巧みになされていたのではないか。
  役所は元刑事。離婚して妻と娘に去られ、生活は荒れはてる。髪はぼさぼさで、服もいかにも汚い。精神的にも不安定で通院するがアルコール漬けでもある。運悪く連続殺人の重要参考人にもされる。そんななか娘が失踪したとの知らせを元妻から受けて、独力で探索しつづけるというのがあらすじだ。その「捜査」は結構荒っぽい。また相手も相手で、娘が通っていた高校生の不良グループやそれと関連する暴力組織などにその渦中で鉢合わせ、何度も危険に身をさらす。高校生同士のいじめが執拗に描かれたりもして、全体的に流血と暴力、それに殺人があふれかえる。残酷といえば残酷なのだが、わたしは映画のうえでのそういうものに慣れてしまったので、むしろ中島哲也監督がつくりあげたスムースな進行に爽快さを感じたくらいだ。短いカット割が比較的長くつづくがギクシャクせずに、しかも映像美もある。
  浮かびあがってくるのは役所や中谷美紀のわが子への愛だ。逆に言うと、他の人の生命や存在はどうなってもいい、わが子のためには他人をも殺してかまわないというぎりぎりの執念だ。元妻であった人は離婚すれば他人で独立した存在になってしまい、寂しいことだが諦めもできる。だが「子」には血のつながりがあり、それだけは手放したくはないという思い。それなしには生きられない、だからこそ戦っているんだという思い。これは「正気」そのものにわたしには見えた。普段の思いでもあるが、映画の中でそれを見せられて血なまぐささのなかでホッとした。
  娘の正体も最後に明らかになるが、これはどうか。詳述はひかえるが、また少女女優の演技の稚拙さはおまけしなければならないが、実感に乏しい、リアリティがない、というしかないのではないか。驚きが小さいのはどうしてだろうか。最後の最後になって、それまで映像的工夫をちりばめてきた映画が、少女のセリフのみにたよってしまったからか。料理の順番で言えば、ここはデザートにあたるのだが、それまでメインの肉料理をたらふくおなかに入れてしまって舌が麻痺してしまったからか。映画制作の難しさが潜んでいるように思う。この映画一本についてではなくて、映画という器のありようについて考えさせられる。
  ★★★

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