大洋ボート

遁走

  説明すべきだったにちがいないが、敗北を認めることが無性に腹立たしかった。第二幕があることを、まだまだ終わりではないことを自らに言い聞かせていたのか、それも自分では曖昧だった。曖昧さのなかで矜持と憎悪を維持しようとしたのか。正当性は肉襞に縫いこまれ見えなくなった。へし折られつつ、狡さを自覚しつつ、みっともなくも沈黙に沈み込むしかなかったのか。道半ばで投げ出したため度の過ぎたいたずらに過ぎなかったと自他によって見做されることは仕方なかったにしても、時間はあった。今一度問題と脆弱性を俎上にのせ整理整頓し体勢を立て直したうえで、再度進撃する時間はまだまだ残されているとの認知と自覚をうながすことで自らを慰めた。だがもっぱらは空想に終始した。全体に対抗すべく付和雷同以外の拠り所を今さらながら零から建築するにはわたし個人はあまりに力不足だった。それでも自らをふるい立たせようとする鍛錬は日記を付けるように怠りなかったが、また用意は堰を切る直前のように尖鋭に整えられていたが、結局は付和雷同の行動様式の延長線上にあるわたしにとってのわずかな未踏の領域に、空想的にわたしを置くこと以上にどれほども踏みこめなかったのである。
  知らないぞ知らないぞと、わたしは自らのやったことをそう言って顔をそむけたいのが本心としてあったことを否定できない。もしやの報復を恐れたからで、ハリネズミのように身を硬くして防御の姿勢をとった。身の回りをおおげさに監視することに怠りなかった。それでいて誰もいないことに、埃と光が巡回するだけの光景に物足りなさを感じもした。つまりは某月某日以降わたしは楽になった。眉のゆがみが残ったに過ぎない。薄情者がにわかに注目されたごく短い時間が消失して元の薄情者にもどっただけだ。わたしを頼る者などいなかったので、あえて人情を吐露する必要にも迫られなかった。一方では真っ黒な汚物をあの場所に、逃げてきたあの場所に置いて金の宗派像のように堅固に据えつけたい、破壊と醜悪の極みを演出したいという願望も燻ぶりつづけた。王の傲慢を実現することで人格が裏返ることを怖れて後退したが、未練が跡を曳いた。まだまだやり足りなかったのだが、それだからこそ安全に逃げ込めた。そこに居ないからこその無人格だからこそのこの夢は空想の弾力を得て野放図にひろがり、わたしはそれを弄ぶことで時間をつぶした。自由は退廃を呼び込み、退廃のつまらなさを長く味わいつくしてやがて飽きた。
  抽象的善意はともすれば具体的悪行にすり替わるが、前者の抒情性と闘争心は発掘されなければならない、それどころかその不徹底性を鍛え直さなければならない。痴呆性の傷の手当ては施さねばならない。後者の不遜と犯罪性も切り捨てることはできようが、できるかぎりはやはり擁護されなくてはならない、あいつはほんとうはいい奴なんだと。これこれしかじかの理由と背景があるのだと。面映さに身体が浮きあがるような薄気味さにとらえられるとしてもだ。断罪すべき罪は徹底して断罪すべきだし、受け入れるべき罰には従容として従わなければならないとしても。そのなかにはわたしも数えられる。

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