大洋ボート

ゼロ・ダーク・サーティ

 2001年のアメリカ同時多発テロの首謀者でアルカイダの総帥とされるオサマ・ビン・ラディンは、2011年5月にパキスタンの某都市の隠れ家に潜伏しているところを、アメリカ軍のヘリコプター部隊に急襲され殺害された。この10年にも及ぶビン・ラディンへの追跡捜査の一端がCIA女性職員ジェシカ・ダステインの目をとおして描かれる。
  事実のおおよそはこの通りではないかとの感想を持った。脚色は施されているのかもしれないが、特に目新しい「事実」らしきものは私が見たかぎりでは無かった。つまりそういう装いがこの映画の狙いであり、十分に成功している。主人公はよくあるアクション映画のヒロインのような超人的な活躍とは無縁である。CIAという大きな組織の中のひとつのコマであって突出した動きをするのではない。つきとめられた情報を吟味し、さらにその情報を掘り下げてあらたな情報を獲得すべく、組織だった行動をするのみである。またビン・ラディンにたいする激しい復讐心を燃やすのか、といえばこれは不明だ。アルカイダの関係者と目される人物にたいして拷問をまじえた激しい取調べを行う職員がいるが、彼にはそういう復讐心があるのではと思わせるが、ジェシカ・ダステインには表立ってはそれは見られない。(この職員が疲れて、やがて本国のデスク勤務を志望してそれをかなえるのは皮肉である。感情をよりどころにするとその衰微も早いのではないかと、私は思った。彼はペットの猿が慰めのひとつであるが、その猿を殺害されてにわかに嫌気がさしたようだ。)ジェシカ・ダステインを支えるのは職業的執着なのだろう。
  緊張感が最後までよくつづくなかで、リアル志向に微笑させられる場面も捨てがたい。ダステインがパキスタンの軍事施設にはじめた赴任したとき、専用のデスクが用意されていてデスクトップ・パソコンもあるが、デスクにうっすらと埃がつもっていて、それを軽く手で払う場面。また基地の通用門までの通路に遮蔽物がほどこされていて、進入車はジグザグ運転しなければならない、つまり猛スピードで突進できない仕掛けになっている。また自動小銃を発射したあとに薬莢が落ちる音がクソ丁寧に拾われている。
  重要なことを記しておかなければならない。戦争にしろ、犯罪捜査にしろ、100%確実な情報はまず手に入れられない。偵察衛星が写真を提供したところで、あくまでそれは有力な情報獲得手段が増えたに過ぎないので、この映画の場合、ビン・ラディンの姿がそこに解析されないかぎりは「くさい」という段階にとどまる。また戦争であれば敵が意図的に誤情報を流すこともあり、それを真に受けたがために打撃を受けることもある。イラク戦争の引き金になったのはイラクの「大量破壊兵器保持」という情報であったがこれがガセであったことは周知のとおりだ。調査チームがつきとめた家にはたしてビン・ラディンがいるのか。ジェシカ・ダステインは勿論100%を主張するが、他のメンバーは60%や20%と言う。上層部に急襲を進言し、その判断を長く待つことになるが、キャスリン・ビグロー監督に戦争批判があるとすれば、まさにこの情報の不確実性によって軍は動かざるをえない、というところにあるか。
  職業的執着は人を鍛え上げ、変貌させる。ジェシカ・ダステインの進言ははたして「正し」いのか。批判の余地はあると思うが、私は硬質なものを受け取った。
  ★★★★
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