2007.02.09 魂萌え!
 定年後まもない夫に先立たれた妻、風吹ジュンの自立の物語。それまでとはまったくちがう扱いを他人から受ける、つまり自分がまるで他者になったような時間が訪れる、そこが面白いと思った。だが自分はあくまで自分で、他人の視線にも理由があるので、体勢を立て直して「他者のような」自分を真の自分としてくり込んで行かなくてはならない、その部分に惹かれた。

 葬儀のあと間もない頃、女性から電話がかかってくる。亡夫の知人だと言うが、風吹は知らない。それに電話の声に謎めいたところがある。やがてその電話の主が焼香に訪れるが、この人が亡夫の愛人であった三田佳子である。独特の雰囲気がある。図々しさと亡霊のようなか細さと、それに悲しみをあわせもったというのか。この一連の流れの三田佳子がなかなかの雰囲気で、だてに長年女優をやってはいないな、と思わせる。無論、愛人の存在など風吹ジュンは知らなかったので、愛人の目からすると、自分が「本妻」として妬まれ、また愛人なりの悲しみを押しつけられる存在にまで急変する。それを自覚させられる。

 もうひとつ「他者のような自分」になってしまう話がある。渡米中の長男が葬儀もあって帰ってくるが、遺産相続のことやら、自宅の扱いのことやらを図々しく、母風吹ジュンに要求してくることだ。夫に代わってにわかに家長の役を担わされ、また長男のまったく知らなかった一面を見せつけられるのだが、この戸惑いにも共感を持った。

 あとの部分は冴えない。身よりのない老人、借金まみれの男、一見幸福そうでも長い家庭不和のもとにある男、などが登場するのだが、いくら風吹ジュンがそれまで専業主婦であっても、マスメディアなどで知るところではないか。少女のように驚きの表情を浮かべるだけでは物足りない。小説だったら、「こう感じた」「こう思った」という文章で締めくくってさまになるが。川面をはさんだ満開の桜や、映画「ひまわり」の映像はうつくしいが、映画全体に溶け合うまでにはいかない。
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