大洋ボート

最初の人間

  真面目な映画だ。物語としては盛り上がりにとぼしく、映像としてもはっとするような美しさも奇抜さもない。それほど印象深くはないのかと見終わった直後は思ったが、何日か経つとこの映画のよさがじわじわと体内に染みわたってくる。ここにあるのは、映画としてことさら奇を衒うのではない、私たちが普段すごしている日常の世界であり、それを再現しようとして映画は何気なさを装って腐心しているのだ。日常といってもひとりひとりちがったものだが、それぞれが毎日自分にとって同じ仕事をして同じ風景に接しているというそのこと自体は共通している。また同じ肉親と毎日のように顔を合わせることも共通している。舞台は1950年代中頃の対フランス独立運動に揺れるアルジェリアの首都アルジェで、何年ぶりかで帰郷した作家の主人公(俳優名・ジャック・ガンブラン)や一人暮らしの老いた母がいるが、作家がかつて毎日接したであろう風景を彼が見るようにカメラは画面に定着させるのだ。砂漠の土の色とそっくりな色の石造りの家々のたたずまい。坂道が多く、小高い場所からは手に取るように地中海の紺碧の海が見渡せる。名所旧跡を撮るのではなく、アルジェで暮らす人々にとってはありふれた風景にちがいないが、ああ私たちもこうやって同じ風景に接しているのだなと、心に染みた。
  母役のカトリーヌ・ソラという女優が疲弊した表情を一貫して顔に刻みつけている。夫を戦争で亡くし若い頃から女手ひとつで主人公を育ててきたその生活の辛苦が刻まれているという風だ。作家は母の苦労を知り尽くすかのようで、肉親を喪った者の打撃がいかに大きいのかも少年期をふりかえりつつ身に染みている。有名作家(アルベール・カミュ)である主人公は学生たちから帰郷を歓迎されるが、アラブ人とフランス人の共存と融和を訴える彼の講演は落胆と失望とで迎えられる。独立かフランス領維持か、旗幟鮮明にしない彼の態度はかえって双方から攻撃される。もはや双方のたたかいは爆弾テロが横行するまでに発展していたので、作家の影響力もそれを制止するに足るものではなくなっていたのであり、作家も十分にそれを知り無力感に打ちのめされる。この無力感及び苦渋が少年期における家庭の貧しさや苦労と二重になって何ともいえない重苦しさを形成するのだ。
  物語が動きそうになる場面がある。作家が少年期にいじめられたアラブ人がいて今は友人関係であるが、その息子がテロ事件の容疑者として収監されている。作家はそれこそ作家の権威を借りてか裁判所に直談判したり息子に面会したりして一筋の光明が見えかかるが、詳しくは書かないがここでもその目論見は挫折し、かえって無力と疲弊がましてくる。青年の死を厭わないひたむきさに作家はなすすべがないのだ。
  ラストではテーブルをはさんで向き合った主人公と母がぼんやりした眼差しをしてうつむき加減になる。ちょっと芝居くさいかなと感じさせられ、さあこれからどんな展開が待っているのか、そう思った瞬間に映画は閉じる。そっけないような、こういう終わり方もありだなと納得した。
        ★★★★
関連記事
スポンサーサイト
    13:56 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
Comment







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://oceanic.blog70.fc2.com/tb.php/543-c2936fa4
プロフィール

seha

Author:seha
FC2ブログへようこそ!

カレンダー(月別)
03 ≪│2017/04│≫ 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
最新の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
カテゴリー
月別アーカイブ
全ての記事を表示する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
ブロとも申請フォーム
ブロとも一覧
ブログ内検索
RSSフィード
リンク