大洋ボート

古代ギリシャの「白」

  昨日の深夜はDVD『追いつめられて』(1987/アメリカ)を見た。何日か前に途中まで見ていたのでそのつづきだった。内容的にはサスペンスで、まあまあ面白かったが、アメリカ映画では類似のものがごまんとあるので物足りない気がしなくもなかった。そこで、眠かったがもう少しテレビをと思い、何気なくリモコンを切り替えてあちこちの番組を探ってみた。NHKでは『大英博物館』というドキュメントをやっていたが、これが少し見るうちにどんどん引き込まれていった。深夜やるからには再放送であろう、すでに見て知っている方もいると思うが。
  途中からだったのでエジプトの項目はほんの少ししか見られなかったが、ギリシャをとりあげた項目にきてかなり驚いた。私たちがすぐにイメージする古代ギリシャ文明とは、ミロのヴィーナスにしろパルテノン神殿にしろ、外観の色彩は白であるが、これが最新の光学的探査によって鮮やかな原色が何色も塗りつけられた極彩色であったことが判明したというのだ。ミロのヴィーナスはとりあげられていなかったが、ほかの女性像がコムピューター・グラフィックスによって着色された最初の状態が復元されて映し出された。全面的に解明されたのでもないらしいが、衣装はもちろんのこと、髪や目、さらには肌にまで着色がなされたという。パルテノン神殿は巨大な柱そのものとなっている並んだ女神像や天井や建物の上の部分が極彩色によって蘇った。そういえば、天平・白鳳時代以降の日本の仏像も元来は極彩色で長年月の風化によって色が剥落したというのだから、今さら驚くには当らないのだが。
  エジプト文明との関連性も興味深かった。ギリシャ文明は紀元前7世紀に突然奇跡のように出現したとともすれば考えられてきたが、多くのギリシャ人がその頃傭兵としてエジプトに移住し、帰郷するとともにその彫刻や建築の技術をもちかえった、その成果がギリシャの文明として結実したという。なるほどエジプトには多数の彩色壁画が残されている。
  ギリシャ文明(文化)がイコール白という概念が固定化されたのは18世紀なかばで、彫刻の色彩の剥落という事実があったにせよ、それに輪をかけるようにギリシャがヨーロッパ文明の起源であり「純粋」であり、「純粋」さが「白」として捉えなおされたという。ヨーロッパはアジアでもエジプトでもなく独自の起源を持つという優越主義が思想的背景としてあった。たいへん残念なことにこの誤った「白」のイメージが災いして黒ずんだ「汚れた」ギリシャ彫刻の多くが「白」を復元するために大英博物館によって、その表面がへらによって削り取られた。だから最新の科学的探査によってもその元の色彩は探れなくなったという。
  漠然とした先入観が突きくずされる快感を抱かせてくれた。
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    13:31 | Trackback : 0 | Comment : 6 | Top
Comment
2012.08.19 Sun 10:45  |  seha #-
>ラックさん
ご丁寧な対応、ありがとうございます。
残念ながら「国家」は読んでいません。


Re: コメントの訂正  [URL] [Edit]
2012.08.19 Sun 08:27  |  ラック #g/lsVUD2
先のコメントの内容に誤りがありましたので訂正します。
ゴルギアス ではなく 国家 でした。
トラシュマコス ではなく アディマントス でした。
十分確認してから書き込むべきでした。
ついでながら、より詳しい箇所を紹介しておきます。
国家、第四巻第一章420節 岩波文庫では国家上巻262ページ
"そういうわけで、たとえて言えば、いまここにある人が、我々が彫像に色を塗っているところにやって来て、像の最も美しい部分に最も美しい色の絵の具を塗っていないのはけしからんと言って ~~"
コメントの訂正  [URL] [Edit]
2012.08.14 Tue 18:07  |  seha #-
>ラックさん
そうでしたか。「ゴルギアス」は数年前に読みましたが、その部分は頭に入っていませんでした。興味深いご指摘、ありがとうございました。古代ギリシャはヨーロッパの起源であり、純粋であり、そうであるならば「白」でなければならない、という「理解」にこだわったのかな。

> プラトンの「ゴルギアス」の序盤の終わり、トラシュマコスとの対話でソクラテスが石像の彩色を例にとって反駁する部分があったりするので、日本はともかくヨーロッパでは当たり前に知られていることだと思っていたのですが、そうでもない、ということにむしろあの番組をみて興味をひかれました。
Re: タイトルなし  [URL] [Edit]
2012.08.14 Tue 13:40  |  ラック #g/lsVUD2
プラトンの「ゴルギアス」の序盤の終わり、トラシュマコスとの対話でソクラテスが石像の彩色を例にとって反駁する部分があったりするので、日本はともかくヨーロッパでは当たり前に知られていることだと思っていたのですが、そうでもない、ということにむしろあの番組をみて興味をひかれました。
  [URL] [Edit]
2012.08.02 Thu 20:27  |  seha #-
>苺杏仁さん
まったく同感です。つけくわえることはありません。
コメント、ありがとうございました。


> 先日NHKの特番で観て驚きました。世界史でも美術でも、聞いたことがありませんでした。ピエロの衣装みたいな奇抜な彫刻が再現でありましたね。大英帝国が「極彩色趣味悪い!」とご都合主義で彫刻を白くけずっていたなんて。ずいぶん思い切ったことをする国ですね。20数年前、コピー機のCMで、かつてパルテノン神殿は極彩色でしたと、再現した映像が出ていました。それが日光東照宮みたいでしたね。
Re: おどろいた  [URL] [Edit]
2012.08.02 Thu 15:13  |  苺杏仁 #aME34n5w
先日NHKの特番で観て驚きました。世界史でも美術でも、聞いたことがありませんでした。ピエロの衣装みたいな奇抜な彫刻が再現でありましたね。大英帝国が「極彩色趣味悪い!」とご都合主義で彫刻を白くけずっていたなんて。ずいぶん思い切ったことをする国ですね。20数年前、コピー機のCMで、かつてパルテノン神殿は極彩色でしたと、再現した映像が出ていました。それが日光東照宮みたいでしたね。
おどろいた  [URL] [Edit]







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