大洋ボート

しとやかな獣(1962/日本)

しとやかな獣 [DVD]しとやかな獣 [DVD]
(2005/09/23)
若尾文子、伊藤雄之助 他

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  登場人物全員が小悪人というブラック・コメディ。最後に出てくる税務署員の船越英二はむしろ善人の印象があるが、やはり魔がさして犯罪に手を染めてしまうので結果、悪人になってしまう。どういう悪事をなしたかがそれぞれの自己主張によって明らかにされる。そろって確信犯的で、少々の悪事をはたらかないかぎりはこの世で生き抜くことはできない、のし上がることはできないという居直りであり、平凡な生への怨みつらみであり、また自慢話の競演である。不正であろうとなかろうと贅沢をすることが、金によって人をしたがわせることが人生の目的であり楽しみであるという人生観である。だがせっかくいっぱしの悪事をはたらいたつもりでも、その成果をかすめとる悪人がしれっとした顔ですぐそばにいて地団太を踏ませる。「上には上がある」のだ。
  こういう自慢話やいがみあいが過去に起きたことや現在進行形の争いをひっくるめてごたまぜになってすべてが会話で表現される。団地の高層階に住む伊藤雄之助・山岡久乃夫妻のところへ芸能プロダクション社長の高松英郎があやしけな金髪タレントの小沢昭一と秘書の若尾文子をしたがえて乗り込んでくる。<おたくの息子さん(川畑愛光)に会社の金を横領された>というのだ。次には娘の浜田ゆう子を愛人にしている作家・山茶花究がやってきて<××子は何処にいるんだ>と言う。山茶花はまた伊藤に高額の金を貸しているが、返済してくれない。さらに川畑には名刺を勝手につかわれて飲み食いされる。高松も山茶花も血相を変えた様子だ。一方、伊藤雄之助は息子と娘が何をしようと家計を潤すのをほくそんで眺めている……。
  なかなか軽快であり、にやりとさせる心地よさがある。もしこれが外国映画なら字幕の洪水になってしまうか、省略的な翻訳になってしまうかで、おもしろさが半減したのではないか。こういう会話の多さを楽しむ映画は日本にはそれほどないだけに、変な言い方だが、日本人でよかったと思う。
  この映画がつくられたのは60年代前半で高度成長が軌道に乗りはじめた時期で、多くの日本人が所得を増やしはじめたのであり、また誰もがそういう時代の空気を感じ取っていたのでもあり<俺も俺も>と前のめりになっていた。あくせくしていたし、慌てていたのではないか。普通はそれを勤労によって実現しようとするものだが、この映画はそれを不正によって実現しようとする人々を描いており、この時代の陰画ではないかと受け取った。先頃他界した映画監督新藤兼人のシナリオで、彼の同時代批判であろうが、それを正確に受け止めたうえでさらに川島雄三監督や俳優陣がたいへん面白がって表現していて、一流のブラック・コメディに仕上げている。映像的に印象に残るのは、赤々とした夕日をバックにして浜田と川畑の姉弟が室内で踊り狂う場面。狂うことの自己肯定が生き生きと伝わる。踊りはツイストのようだが、音楽がエレキギターのような洋風ではなく雅楽器の鼓とコンガのコレボレーションであり秀逸だ。
     ★★★★
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