大洋ボート

少年と自転車

  身寄りのない子供を預かる施設から少年が父に会うために脱走する。ここから映画ははじまる。少年はみたところ十歳くらいだろうか。父に会いたくてたまらない少年はやっとの思いで父の住所を探り当てて、矢も楯もたまらずそのアパートにたどりつく。だが管理人によると少年の父にあたる男性はすでに引っ越したあとだった。しかし少年は納得できない。追いかけてきた施設の人も扱いかねて部屋を見せることにする。その場ではじめて少年は、父が部屋にいないことをようやくのように認めざるをえない。またその直前には施設の職員から逃げようとしてアパートの一階にある開業医に侵入してしまうことまでやらかす。ずいぶん意地っ張りで執念深くてわがままいっぱいの子供だなあという印象を否が応でも視聴者にもたらすにちがいない。家族、血のつながりのある存在が子供にとってどれほどかけがえのないものなのか、訴えかけてくる気がしたのだが、以後の展開をみるとそれだけではないのだ。
  この少年は父にあたる人に自由や躍動感といったもの、またそれを前提にした人同志のつながりを教えてもらったのだ。父にとってはそれは肉親としての子供とのつきあいや遊びやふざけること、つまり余暇でしかなかったのかもしれないが、少年にとっては父との生活は父がみなす以上のものとして記憶に刻み込まれたのだ。意地っ張りで執念深く、わがままなところもそっくり父から教え込まれたもので、父との生活の様子は映画では描かれないが、おそらくはそうした少年の個性は父が面白がってやまなかったのではないか。少年はそれをくっきりと覚えている。父が教えるとおりにすると自分も面白く、父がそれをみて喜ぶとさらに面白い。だから少年は、そういう行動や遊びを現在もつづけたい、人同士のつながりもそれをつうじてえたいのだが、少年にとっては父以外にはそれを手助けしてくれる人がいないのだ。施設の職員や里親になる美容師は、たぶん少年からみると抑圧的で、感覚的にいけ好かない。
  だが私たちは父にあたる男が少年にたいして病的なほどに冷酷であることをみせられる。だまって姿をくらませたうえに、ようやく少年が里親の女性とともに探し当てたときも、悪びれた様子もなく同居も定期的な面会も多忙を理由にむげもなく拒絶するのだ。少年はそれでも父を信じようとする。過去の父から受け取ったものがあまりにも貴重で現在の父もそれとまったく同じ存在としかみることができない。逆にいうと、冷酷で非人間的な父を受け入れることは少年自身の世界の全崩壊をもたらす。先述したアパートの件にしても、父がそこにいないというのは周りの人々の嘘で、父と自分とを引き剥がす策謀だと疑ったからではないか。つまり少年のなかでは父は永遠に善人であり、一見してそう見えないのは他の人の作為がはたらくからだと、少年は解釈したいのだ。父以外の人は中立でなければすべては敵ということになる。
  映画の展開部において少年は不良少年グループのリーダーの青年と知り合い親しくなる。盗まれた自転車を取り返そうと盗んで逃げる少年を追いかけるのだが、同じ相手に2回も盗まれかける。これこそ策謀で、数人の相手もものかわ突っかかっていく少年の向こう意気の強さにリーダーが目をつけたからだ。リーダーの青年は少年を褒め称え、下心をもっていっしょに遊ぶことになる。この出来事はほかならない父との再会の代替物として少年は直感する。青年が父のような存在に映るのだ。この出会いに少年は盲目的に没入する。寂しさから解き放たれる。いつもいっしょにいたいから青年の悪事への誘いも丸呑みする……。
  青年の冷酷さを知り、さらに駄目押しのように同時に父の冷酷さと二面性を知った少年の自傷行為は痛々しいかぎりだ。里親の女性が制止しなかったらどうなっていただろうとふるえる思いにさせられた。
  少年がまわりの人々のやさしさや冷酷さなどの真実の存在に目覚めるという成長物語であるが、それだけではない。後悔がのちのちもつきまとうであろうし、また記憶に刻み込まれた父との生活の快楽も繰りかえしふりかえらなければならないだろう。まったく忘れてしまうことなんてできないのだ。将来この少年に何が待ち受けているか勿論わからないが、目の前の事態に対峙するだけではすまされない重い人生を背負ってしまった、というよりも人生の大半を既に生きてしまったのかもしれない少年である。私の書き方はともかくも、いい映画だ。
     ★★★★★
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