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大沢在昌『新宿鮫Ⅹ 絆回廊』

絆回廊 新宿鮫?絆回廊 新宿鮫?
(2011/06/03)
大沢在昌

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  殺人罪で20年以上服役していた男が出所してきて、拳銃を手に入れたがっている。新宿署の刑事鮫島はこの情報をベテランの麻薬密売人で、かつ鮫島への情報提供者である男から入手した。その男は60代後半で、殺人罪であっても普通は10年余りで出所できるが、刑務所内での態度が非妥協的であったためにそれほどの長期刑を科されたという。男の狙いは何か。拳銃を欲しがっているからには特定の人物を殺すことが目的であるかもしれない。さらに拳銃を必要とすることは、相手の標的の人物もまた拳銃を常時携帯する人間であることを意味するのかもしれない。もしかするとその相手とは警察官ではないのか。情報提供者によると、その男はいったん標的を定めたらテコでもぶれない、どこまでも追っていくという凄みを体から発散させている。鮫島は例によって一匹狼的にこの情報を元に捜査を開始する。
  もう一人の主要な人物として陸永昌(ルーヨンチャン)という中国人がいる。彼は北朝鮮国境地帯からカンボジア・タイまでの中国大陸から大陸東南部までの広範囲の地域を行動半径として、売春クラブ経営のほか、高純度の麻薬を大量に買い付けて日本へ密輸出する。日本との行き来も頻繁で、新宿の暴力組織ともつながりがある。また残留中国人孤児2世、3世で構成されるの「金石」(ジンシ)なる組織があり、中国語と日本語が両方ともペラペラであり、普段はまったくの堅気の生活をしながら、いざとなればやくざ以上の暴力行使を厭わない。永昌とのつながりもある。最初に記した60代後半の男をはじめ、一見なんのつながりもないこれら人物や集団がしだいに一つのかたまりとなって犯罪の姿が浮き彫りになっていく。とりわけ最初の男と陸永昌とのつながりが最後には物語の核となる。
  大沢在昌の本をひさしぶりに手に取った。きびきびした会話の運びは相変わらずで、部分的に不明な点をその度ごとに明らかにしていくことで、全体像がおぼろげに浮かびあがってくる。省略を適度に効かせていることがスピード感にもつながっている。また新宿の小さな飲み屋があつまる街の一角の雰囲気などもこの作者独特のものかもしれない。歓楽のなかにある侘しさのようなものを私は感じ取ったのかもしれない。
  だが今回の長編は物足りなかった。これまで私が読んだ大沢在昌には犯人や被害者や周辺の人物への深い同情と哀れみが最後の部分で展開されて、それまでのスピード感とは別の深さと余韻を与えてくれたのだが、この『絆回廊』にはそれがかなり不足していると思えた。最初に記したいわゆる長六四(ナガムシ:長期刑をさす隠語)の男にしても古い人物像で、こういう人間を大沢は書き飽きているのではないか。また『金石』という集団にしても造形が足りない。中国残留孤児2世、3世の犯罪組織なるもの、もしかすると実在するのかもしれないと思わせる書きぶりではなかった。
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