大洋ボート

ヒマラヤ 運命の山

  暑さが衰えないので、雪山の景色をみたいと思って出かけた。その欲求はだいたい満足させることができたが、呑みこむべき要素が多いので面食らったところがある。この映画はドイツの製作だが、アルピニストにたいする関心と尊敬の度合いがわが国とくらべてかなり大きいように思われたことで、これはにわかにはわたしの想像力にうまく着地してくれなかった。わが国のスポーツにたとえると、オリンピックや国際試合にたいするナショナリスティックな関心と応援にあてはまるのだろうか。それにこの事情はドイツばかりでなく、ヨーロッパのほかの国々にも共通するものかもしれない。かの地におけるサッカー選手の社会的地位や注目度にアルピニストは匹敵するのだろうか。
  主人公はラインホルト・メスナーという実在の登山家がモデルだそうで、ヒマラヤのナンガ・パルバートという山の登頂を目指すのだが、登頂には成功するものの下山途中で同行した弟が死亡するという事故にあう。これが物語の中心だが、けっこうややこしい。登山チームの隊長が帰国してから後、主人公にたいして兄弟を見捨てたということでにわかに非難をはじめて「スキャンダル」となるのだ。だがこの隊長ももとはアルピニストで、同じように登山において弟を亡くしているという悲劇を背負っている。また主人公に強烈なライバル意識を抱くようで、隊長ながら主人公の成功をかならずしも願わないようなのだ。彼は主人公を登頂させないために、頂上の一歩手前でキャンプする4人のメンバーに「悪天候」の贋の情報を知らせるために烽火にして打ち上げる。4人はこれを信じるが、功名心と自負心の強い主人公はこれを無視して頂上を目指し弟も少し遅れて追いかけることになる。だが隊長のニセ情報は変りやすい山の天気のため結果的には正しい情報となり、隊長の非難の絶好の口実となる。死の危険がたえずともなう困難な登山においてラインホルト・メスナーのとった行動がはたして妥当だったかということが、映画のもっぱらの関心で、視聴者に考えさせようとするのだろう。
  私にとっては、こういうテーマは映画という枠を超えた大きな問題である。だから自然と個別の映画作品からは離れてしまうことになり、こういときには映画からもっとヒントをもらいたいと願うところだが、その点では不可解さが残り満足させてくれなかったというべきか。子供のときから兄弟そろって登山好きであり、登山を通じて兄弟愛が堅固無比になっていったという描写はわかる。体力面において兄のほうが一歩先んじていて、弟がそれにへばりつくようについていく、兄もそれをわかっていて弟をときには無視してどんどん進んでいく、それもまた兄弟の不文律。下山途中兄がもっと弟にくっついていれば遭難は防げたのではないかとも思わせるが、兄弟の登山におけるこの傾向は外部からは口を挟めないほどの完璧性があって、映画はそれを非難よりもより多く賞賛するのだろうか。ラインホルト・メスナーのみならず、広くほかのアルピニストへの賞賛にもつながるようで、それ以上には映画作者は踏み込まない。
  すごいなと思った場面が短いがあった。頂上から下山に移る過程でラインホルトが遭難死した隊長の弟(兄?)を見て道案内をしてもらう場面だ。勿論幻だが、これは体力が落ちて死に近接したときに、決まったようにやさしげに訪れるものだ。人ややさしさにたいする飢えだろうか。ジャック・ロンドンという人の短編にもでてきた。こういうところを拡大してくれたら、もっと面白くなったのではないかと思った。
    ★★★
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