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百田尚樹『幸福な生活』
2011 / 09 / 11 ( Sun )
幸福な生活幸福な生活
(2011/05/27)
百田尚樹

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  十ページあまりの短編が十八編たばねられている。一見幸福に推移する生活のなかで、配偶者や親子の素顔があらわになって度肝を抜かれるという構成がすべてに共通している。物語の世界に少し酔えそうになったとき、それまでの世界と思い込みを一気にひっくりかえすべく最後の一行が待っているというのも同じだ。表紙帯には本屋の店員さんばかりの短い推薦文が集められていて絶賛の嵐で、これに惹かれて買ってしまったのだが、それほどでもないのかなという印象を持った。
 どこかで、つまりテレビや新聞記事で見聞したことがある出来事やそこからひろげられたフィクションというものがあって、わたしたちは細部を省略したうえで、共通の漠然としたイメージとしてそういうものを引きずっているものだ。幸福があり不幸があり、深刻さと軽薄さが入り混じっている。無数にあるこれらの出来事に私たちはいちいちつきあえないから概略的に済ましてしまう。さらにそれをもう一歩すすめて笑い話にしてしまうこともある。褒められたことではないが、息苦しさを避けるため、のんびりとするためである。親しい存在の裏切りやにわかにみせる素顔にしても、フィクションとしてまた他人事として受けとめれば深刻さはやわらぐ。ありふれた話であっても、実相を掘り下げればそこでしか味わえない空気がたちのぼってくるものだが、最初からそれを目的にせず、ただ読者を笑わせるため、くすぐるための目的で読み物が大量生産される。大衆としての読者もそれを期待する部分がある。だが大量生産されればされるだけ型に嵌ってくる傾向がある。この短編集もその傾向から自由にはなっていないのではないか。 
  それぞれがテレビのコントを少し長くしたような味わいで、読みやすくしかも雑ではない点では作者の腕は確かだが、深刻さはなく、また書いたような理由で新鮮味は乏しいというべきか。たとえば、取引ある会社に独身の美人OLがいて主人公の男性はなんとかものにしたいと思うところだが、女性には恋人がいる。そこで男は一計を案じて女性の前でたいへんカッコいいところを見せて(ついでに恋人のぶざまなところも女性に見せつけて)ついに女性の心をつかんで結婚まで漕ぎつけるという話がある。懇親会の会場でその女性がやくざにからまれたとき、主人公が身を挺して撃退したことになるのだが、実はやくざとみえた男たちと主人公は同じ劇団に属したことがあったかで、打ちあわせて大芝居を打ったというのがオチだが、こういうオチはテレビなどで何度も見させられたのではないか。
  しかし、はっとする個所もあった。「ブス談義」では高校時代の友人の結婚式に出席したかつての同級生たちが、花嫁が驚くほどの「ブス」であったため、当時の女性教師や同級生の「ブス」を思い出して話が盛りあがる。若い時代の異性にたいする執着とその裏返しの軽蔑や憎しみは誰にとっても覚えあるところだろうが、この個所はたんなるお話という以上に作者の体験がはみ出てきている生々しさに接した気になった。つまり今では医師で仲間の出世頭で、なおかつ鈴木京香似の奥さんをもらって得意満面の男がいるのだが、彼はかつてグラウンドいっぱいに学校一番のブスの似顔絵を白線で描いたというのだ。(勿論、学校や教師からきびしい叱責を受けた)こういう個所は想像力だけでは書けない突飛さがあって感心させられた。そしてこの編ではオチも効いている。鈴木京香似の奥さんと当の落書きの対象になったブスには深い関係がある。あっなるほどと思った。詳しいことは読んで確かめてください。

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コメント
--Re: タイトルなし--

>藍色さん
TB,コメント、ありがとうございます。
この短編集ですが、ピックアップした2編以外は
すっかり忘れてしまいました。
何か書こうかなとも思いましたが、書くべきことが見つかりません。


> 先日は、ありがとうございました。
> こちらにもトラックバックさせていただきました。
> トラックバックお待ちしていますね。
by: seha * 2013/05/16 22:41 * URL [ 編集] | page top↑
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先日は、ありがとうございました。
こちらにもトラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
by: 藍色 * 2013/05/15 00:12 * URL [ 編集] | page top↑
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