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中野京子『名画の謎・ギリシャ神話篇』

中野京子と読み解く名画の謎 ギリシャ神話篇中野京子と読み解く名画の謎 ギリシャ神話篇
(2011/03/09)
中野 京子

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  ルネサンス期以降の有名絵画にとりあげられたギリシャ神話について丁寧に解説してくれる。ギリシャ神話についてはだいぶ前にブルフィンチという人の本を読んだだけでほとんど知らないのも同然だ。また絵画もここにとりあげられたものは図版でしか見たことがない。興味はあるものの休日が少ないので、美術館までなかなか足を運ぶ気になれない。そういう私のような無知無学な人間にとっては格好の入門書であろう。マスメディアからとはかぎらないが、流布されたものをこちらが無意識に脚色してなんとなく抱いてしまっているイメージ、もしギリシャ神話や絵画に関してそういうものがあるならば、心地よく打ちくだいてくれる効能がこの本にはある。
   神話の神々は野放図なまでに好色で淫蕩であったらしい。たとえばヴィーナスという女神。私がまっさきに思い浮かべるのはボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』(1483年頃)であり、うつくしい裸身と整った顔立ちからそれだけで清楚な印象をもっていたが、神話に記されたヴィーナスは異性にたいしてはおそろしく貪欲であったようで、ほかの有名絵画でもそちらのヴィーナス像にむしろ忠実であった。ティントレット『ウルカヌスに見つかったヴィーナスとマルス』(1555年頃)では軍事の神様マルスと同衾している最中にヴィーナスの正式の夫の鍛冶の神ウルカヌスに侵入される場面が描かれる。ウルカヌスという神はヴィーナスには似つかわしくないと思うほどに老齢で容姿も悪いのだが、それだけに妻の品行が気になって執念深く付けまわしたのかもしれない。性行為の最中の気配が濃厚にただよう薄布一枚(シーツ?)しか纏っていないヴィーナスの体を、その布をはがして真面目くさく検分するウルカヌス。ベッドの下にはマルスが物音で気づいたのか、あわてて身を隠すという構図になっている。ヴィーナスはまたアドニスという狩が得意な美少年にも夢中になったが、これもルーベンスやティツィアーノという画家が描いている。
   少し元に戻るが、ボッティチェリの『ヴィーナス誕生』や『春』に描かれたヴィーナス像は、中野京子によるとルネサンス期においてキリスト教とギリシャ神話の人文学者による統合が主張され、ボッティチェリがその説に賛同した反映であるそうだ。教会勢力によってそれまで異端教として退けられていたギリシャ神話が、中間勢力によってひきこまれたのだろうか。『ヴィーナス誕生』のヴィーナスは聖母マリアにみえなくもない気がするが。もっとも裸身のマリア像は存在しないだろう。
   だがこの、キリスト教とギリシャ神話というヨーロッパにおける二大文化の統合の試みは例外的で、ごく短期間で終わった。以後は当然のように、教会勢力は有名画家にキリスト教に題材をとった絵を依頼し、それにたいしてギリシャ神話を題材にと依頼したのは王侯貴族や大商人などの富裕層であったという。(無論、同じ画家が両方の題材を描いた例は枚挙にいとまがない)宗教的禁欲にたいする性の野放図なまでの解放が、絵画のうえで意図された。中野さんがいうようにそれは芸術愛好であるとともに、それ以前に娯楽として人間の自然的欲求としてあったのであろう。私も人にとって娯楽は必要不可欠と思う一人だからこういう絵画の歴史は好きだ。ティントレット『天の川の起源』(1575年頃)はその意味では、目にした人はやんやの喝采を送ったのかもしれない。好色の神ゼウスが人妻に産ませた子が乳を欲しがるが、実母は体調不良で出ない。そこで切羽詰ったゼウスは正妻のヘラを「眠らせて」その隙に赤子にヘラの乳を飲ませるという構図。その赤子はのちにヘラクレスと呼ばれる英雄となる。また、そのとき飛び散ったヘラの乳は天の河になった。

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