大洋ボート

シベールの日曜日(1962/フランス)

  古い映画だからか、主人公ハーディ・クリューガー(ピエール)が精神障害者として、どれだけ正確に恋人のマドレーヌをはじめとして周辺の人々に認知されているのか気になった。今日なら医師によってもっと情報がいきわたされるのではないかと思う。最後のほうでやっとこさマドレーヌの友人の医師らしき人物によって彼が「危険」であることが知らされるのだが。また矛盾させるつもりはないが、物語としては障害者というカテゴリーにあまりこだわるべきではない。「死の世界」に強く魅せられることは、私たちにもきっかけさえあれば十分にありうることではないかという迫真力がこの映画にはある。ピエールは記憶喪失者であり、社会的不適合に悩みながらも、善良な人として恋人をはじめ周囲の人からあたたかく遇せられ、見守られている。
  冒頭に粗く加工された映像があり、そこではピエールは戦争のさなかパイロットであり、田畑を爆撃しているところで、まもなく恐怖におののく少女の表情がアップされる。はたしてこの少女がピエールによって殺されたのかどうかはわからないが、彼の記憶喪失はまさにここから始まっているのだろうなと思わせる。(記憶喪失とは、一種の無意識の記憶忌避かもしれない)そして現在のピエールの前にあらわれる少女パトリシア・ゴッジ(フランソワズ)が戦争期の少女とかさなって、ピエールをある種の興奮にかりたて、わくわくさせる。これは、ピエールの周囲の人よりも視聴者がいちはやく知るところであり、ピエールとフランソワズの二人きりの親密な交際ぶりも、フランソワズが子供で、まして彼の過去のことは何も知らないだけにかなりはらはらさせるものがある。
  フランソワズは父に捨てられ修道院に入れられた。二人づれを夜の駅で偶然見たピエールは尾行し、日曜日には父と偽って修道院を訪れてフランソワズを外に連れ出す。日曜日に限っては外出が自由なようだ。フランソワズは父に捨てられたことを知っていて寂しがり、たちまちピエールになついてくる。視聴者から見るフランソワズは多感で多弁で、早熟した色気さえ感じさせる。それに教会の尖塔のうえの風見鶏をプレゼントしてくれなどと無理難題も吹っかけてくる。挑発的で、ピエールから落ち着きを奪うのだ。
  二人が訪れる池の風景がぞくっとさせる。フィルムの状態はあまりよくないが、葉を落とした落葉樹を鏡のように映し出す。二人の姿もくっきりと映る。やがて波紋が広がってうつくしく揺れる。この場面はのちにも出てくる。「サンザシの樹の下で」の水面は危険な香りはしなかったが、ここではそれが立ち昇る。神々しくまた寒々しくかつ神経的だ。ただしこれはピエールからのみの視線だ。フランソワズは屈託なく気に入って池を「我が家」と呼ぶ。ピエールも同感するが、のちの展開からするとそこは「我が家」でありかつ「あの世」であるのかもしれない。それまで散歩がてら木々や池を見ることを吸い込まれそうになると言って嫌がっていたピエールだが、フランソワズの言葉によって気持ちが反転したのかもしれない。映像的にはこの池の趣向を凝らした場面が映画の中心部で、ピエールの周囲の人々との交際を映す日常に大きく付加された非日常といえる。
  フランソワズは父に捨てられたが、その前には離婚によって母に去られている。肉親どころか親しい人に自分は捨てられるのではないかととの強迫観念から自由になれない。また先述したようにピエールが障害者であることなどまったく知らないから、ピエールになにかとせっつく。ピエールにとってもフランソワズとの交際は、いたわられ同情されるという普段の人間関係からは、はみでていて新鮮だ。しかしながら、ピエールは戦争による殺人の擬似的記憶におびやかされている。人を救うことは重く、倫理だけではできない、自信と力が必要だ。そこまでのピエールの遠さ、フランソワズへの遠さ。逆に人殺しをしてしまうことは弱い自分への逃げ込みであり「自己回帰」になるというのだろうか。映画はそこまで答えてはくれないが、余韻が私にそんなことを思い浮かべさせた。
  ★★★★

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ハーディ・クリューガー、パトリシア・ゴッジ 他

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