大洋ボート

乱れる(1964/日本)

  俳優や監督の個性、話のおもしろさ、風景のうつくしさなど、映画はさまざまな要素があって私たちを引きつけるが、セット造りの工夫もまたそこに入れるべきだろう。とくに個性的なセット造りが映画作品の固有性にまで結びつくときにはうれしい気になる。
  この映画の舞台は酒の小売店で、戦争未亡人となった高峰秀子がながく切り盛りしているが、表通りからみれば何処にでもありそうな酒屋にすぎない。ところが店の奥まったところから店や表の様子を撮るときに俄然、この家屋の特異な構造があらわになる。つまり店から奥へ人一人くらいが靴のまま通ることができる細い通路が設けられている。奥には倉庫があるのか庭があるのかまったく不明だが、生活上の便宜のためにそういう造りになっているのだろう。そして狭い通路の両側に居住の部屋があって、通路を渡るための板が置かれている。通路を通るときにはその板はどちらかに寄せられるのであろう。私はこういう造りの家を実際に見たことはないが、古い時代にはいかにもありそうだなと思った。店の奥の暗さとひんやりした感覚まで伝わってきそうで現実味を感じさせ、この個性的なセット造りが映画の強い印象のひとつにまでなっていて秀逸だ。
  高峰秀子は亡き夫の弟で末っ子である加山雄三にやがて求愛されることになるが、拒絶する。加山の件も例外ではなく、何故に高峰は再婚しないままに亡夫の実家に10年以上も居つづけたのか、実家の人手が足りなかったためであるが、別の見方をすればもっと自由に振舞ってもよかったのではないかとも思えるが、これは高峰にとってはごく当たり前であるらしい。夫の家にたいする嫁としての義務か、貞操の堅固さは戦争期に嫁いだ女性の大きな部分(すべてではないにせよ)の特徴なのか、高峰は理屈をたてて説明することはないが、じぶんにとってはこうすることが自然だったと言いたげだ。清楚でしっかり者で生活に根を下ろしている、浮ついたところがまったくない、こういう役どころは高峰秀子にうってつけである。この映画のシナリオだけを読んでみてもつまらないだろう。高峰秀子という女優の肉体をえてはじめて役どころの現実味をえられるのだ。
  高峰は加山を嫌いではなく好きなこともはっきりしているが、にもかかわらず結びつくことを拒もうとする。加山の肉体が触れてくることを避けたがる。電話が鳴りつづけているとき二人が同時に受話器を取ろうとするが、そうすると指が触れる。高峰は手を引っ込める。加山も遠慮して同じことをする。するとまた二人とも同時に手を近づけては引っ込めるという仕草を繰り返し、そのうち電話が切れてしまう。苦笑を誘うそんな場面もある。
  スーパーマーケットが進出して個人経営の小売店を窮地に追いやっていくという60年代前半の社会もよく描かれている。これは現在進行形の事態であるだけに切実さを少し感じるところだ。高峰の酒屋も売れ行きが落ちてきて、そこで酒屋をやめてスーパーに改装する計画が持ち上がる。加山は高峰を重役にと主張するが、高峰はこの辺が潮時と東北の実家に帰ることに決める。諦められずに高峰を追いかけていく加山。二人のドラマの盛り上がりはこの後半部にあるが割愛する。

  この映画、何年か前に見たのだが題名を忘れていたので足を運んでしまった。上映開始からまもなくそのことに気づき、帰ろうとも思ったが、せっかく金を払ったので見ることに決めた。退屈さはあったが、忘れていた部分が蘇ってきておもしろくもあった。
    ★★★★

乱れる [DVD]乱れる [DVD]
(2005/07/22)
高峰秀子、加山雄三 他

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