大洋ボート

トゥルー・グリット

  時間が経つにつれて最初は平凡にしか見えなかった顔がどんどん凛々しく頼もしく、またハンサムに見えてくることがある。私がこの映画で体験したことはまさにそれだった。若い頃に映画のなかではなく現実の友人関係においてそういうことを実感したことがあるのでなつかしい思いがした。その話を少しすれば、その友人は当時の私にはたいへん頭脳明晰に見えて一歩も二歩も私よりも先に行っている気がして、こいつについていけば心強そうだと自然に思えた。顔をまじまじと見ると打ち出の小槌のように何かが出てきそうにも見えた。大げさだが、私は彼に「見とれた」のである。
  この映画ではその顔の持ち主は隻眼の老保安官ジェフ・ブリッジスである。ブリッジスはあらくれ男で、人をむやみに殺してしまうことを裁判で責められる。歳とともに銃の腕も鈍ってきて、飲んだくれではないかと思わせるような頼りなげな空気を発散する。朦朧としたところも見える。だが彼は映画の後半において保安官としての仕事を着実に実行する。前半と後半のこの落差によって、また隻眼で右目に眼帯をしているという見てくれの悪さも逆に作用して、視聴者はブリッジスを見直す。見直すどころか見とれてしまう。ジェフ・ブリッジスの役作りの巧さによることはいうまでもない。
  そんなブリッジスを頼りにするのが父を殺された14歳の少女ヘイリー・スタインフェルドで、犯人への復讐のために彼の力を借りる。14歳とは思えないほどの早熟ぶりで頭脳明晰で向こう意気も強い。父の愛馬を犯人から買い取ったらしい故買屋を探りだして訴訟をちらつかせながら愛馬を買い戻す。また子供だからと相手にしないブリッジスに一歩も退かず犯人追跡を依頼しつづける。スタインフェルドは一貫して無表情で、後日談で成人した彼女(一人二役)の姿が見られるがやはり同じ表情をしている。これは父を殺されたから一念発起した、ファイトをにわかに燃やし始めたということではない。こうと決めたら梃子でも動かない、交渉相手にたいしても絶対に妥協しない、そういう気質の女性であることを物語るようだ。父を殺されたという非常事態によって態度を一変させたのではなく、そのために緊張を維持するのでもなく、頑固で確信的なのが彼女の「普通」の気質だ。「普通」の質が普通ではないのだ。これもブリッジスや二人に同行するテキサス警備隊のマット・デイモンの「柔らかさ」と比較して際立つところだ。
  西部劇だから銃撃戦が当然出てくるが最小限度である。それでもって見せようとはしない。むしろスタインフェルドにしだいに共感を覚え惹かれていくジェフ・ブリッジスと脇役で二人の関係を「解説」してくれるマット・デイモンなどの人間性を描くことに重点がおかれている。少女におだてられていいところを見せようとしている、そんなことをデイモンがブリッジスに(また視聴者に)言ってからかうのだ。おもしろいが、そのぶん犯人グループとの戦闘や探索のスリルは弱まっている気がした。この点では同じコーエン兄弟製作・監督による「ノー・カントリー」にはひけをとるか。他には馬が印象的だった。スタインフェルドを置いてきぼりにしようとして(子供を巻き込むまいとして)ブリッジスとデイモンの二人は先に川を渡るが、それでもスタインフェルドは馬にまたがって急流を渡河しようとする。やがてスタインフェルドは単独で泳ぎ、馬は首だけかろうじて水面から出して渡りきる。ラスト近くでは疲労困憊して汗みずくになって黒光りする馬を見ることができる。この馬も立派な「登場人物」である。
  スタインフェルドは成人してからは独身のままだったとある。ブリッジスほどの男性に出会わなかったことを、またそれほどに彼の思い出が彼女のなかで深いことを暗示するかのようだ。
  ★★★★

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