大洋ボート

白いリボン

  ミヒャエル・ハネケ監督の映画を見るのははじめてであるが、何処かの紹介文にはナチズムを引き起こした青年たちの子供時代の事件というほのめかし方がされていた。第一次世界大戦前夜のドイツの小さな村が舞台であり年代的には符合するが、はたしてそうだろうか。傷害や放火など奇怪な連続事件に子供たちが深く関与していることは映画のなかではついに断定はされないが、おそらくはそうであろうと視聴者は想像することはできる。しかしナチズムのようなとおい出来事が何故現在につながる深刻な問題として掘り返されなければならないのだろうか。私はむしろ宗教的意識の深刻さ、根深さという主題として見た。題名の「白いリボン」は牧師が子供たちの腕に純真無垢であれとの祈り(=命令)を籠めて巻くものだが、それは裏返せば大人にたいして反抗するな、大人社会を知ろうとするな、従順であれという抑圧的意志とも受けとれる。だが子供たちは被害者である。たとえば年長の女の子は医師に性的虐待をこうむることが後半明らかにされるが、一度ではないらしい空気が読み取れる。そこで子供たちは大人への反抗を決意して連帯する。同時にそれは神への反抗でもある。鬱屈した子供なりの宗教意識をつきやぶって「神に懲罰を受けない」存在としてみずからを規定し直すのだ。死を射程に置くかのように橋の細い欄干を歩行しながら子供の一人がそんなことを言っていた。これほどの宗教にたいする意識を子供時代も現在も私は持ったことがないので実感がないが、ドイツやヨーロッパ地域では現在でも「被抑圧意識」としての宗教=キリスト教を引きずっているのだろうか。そしてミヒャエル・ハネケのような知識人は関心を寄せるのだろうか。私は疎いがもしそうならば、現在の問題にちがいなく、ナチズムの病巣をもとおくつらぬいていると思える。つまりナチズムだけが問題ではないのだ。
  マルクスやニーチェは宗教を抑圧装置だと批判したが、べつに学問上の問題ではなく、この映画ではきわめて子供たちにとって即物的、現実的な問題としてあらわれる。階級対立が目の前にあるのだ。医師は書いたとおりの極悪人で、おそらくは子供たちの仕掛けた針金で落馬事故にあう。また地主の男爵は劣悪な職場環境をいっこうに改善せず、そのせいで小作人の妻が事故死する。その妻の子供の青年は怒り狂って、おそらくは自分たちが栽培したであろうキャベツ畑を鍬で破壊してしまう。(これを一連の事件に入れると医師のセクハラとともに「犯人」が明瞭に明かされる一例)男爵の吝嗇と使用人にたいする抑圧ぶりは妻の離反の原因でもあるようだ。また牧師も子供たちの暗い連帯を嗅ぎ取っているようで、その原因が村の大人にあることももしや知っているのかもしれないが「臭いものに蓋」で、無反抗と従順を強制する。そんな大人たちにたいして子供たちの笑顔一つ見せず同じようにやや上目遣いで凝視するさまが印象的で、男爵の金髪の子供だけが無邪気に遊ぶ様子が描かれるので対照的だ。だが残酷な事件の全貌はついに解明されない。大人が一部に加わっていることもほのめかされているようにも思えるが……。狂言回し役の教師が老年期になってからの回想という形式になっているからかもしれない。つまり合理的解釈の限界まで、過去を反芻してやっとたどりつくが、その先にはやはり謎が残るという構成である。物語的な解放感がえられないこともあるが、「病んだ」子供や大人が大部分なので、私にとっては好きになれる映画ではないが。
  モノクロでスタンダードサイズ?(ほんの少し横幅が広いか)の画面はいかにも過去の出来事を表すかのような「ぼかし」を思わせる。それに木造立てで三角屋根の当時の住居。一九五〇年代の日本の校舎に似ているがあれよりもどっしりした風格がある。人や馬車や自転車が通行する広い地道。その風景はまるでそこでいっとき暮らしたことがあるような郷愁をそそられなくもない。この映像は食い込んでくる。カメラワークもなが回しが多用されて堂々としていて風格がある。夜の室内での光と闇の対比。頑丈そうな部屋の造り。これらの画面構成には圧倒される。
  ★★★★

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