大洋ボート

エル・トポ

  「伝説のカルト・ムービー」が四〇年ぶりにデジタル・リマスターでよみがえる。こんな宣伝文句に惹かれて足を運んだが、なかなか面白かった。ストーリーの骨格は、銃の名手の主人公が大活躍をしてヒーローになったかと思いきや、子供を捨てて、暴力集団のボスの愛人とともに逃亡する、つまり極悪人へと豹変する、さらに二〇年後身体障害者の集団のヒーローへとふたたび祭り上げられ期待にたがわぬ活躍ぶりを見せるが、かつて捨てた息子(成人)と再会するというもの。一人の人物のなかにヒーローと極悪人が両性具有のように存在するというところが話としてはめずらしい。だが実際の人間は、絵に描いたようなヒーローよりもこちらのほうにより近いのかもしれない。誤解をおそれずにいえば、見る人はそこに秘かに解放感さえも抱くのかもしれない。だが帳尻合わせは用意されている。主人公は後ろめたさはうしなっていないようで、その贖罪の行為が最後にはなばなしく実現することになる。
  それにストーリーも興味あるところだが、この映画の見所はなんといっても細部への異様なほどのこだわりだろう。とにかくてんこ盛り状態でいちいち覚えきれないくらい目を引く映像がちりばめられている。山羊や子牛の群れが人間のすぐ近くにいる。その一匹一匹の表情が可憐でかつ珍妙でうつくしい。砂漠の小さな町では、人々が無造作につぎつぎになぶり殺しにされるため、水たまりが血の色に染まる、白い壁にも血の赤がいたるところになすりつけられている。これが残酷さを一旦は喚起するものの、映像美として作者の創意工夫として立派に視聴者に受け入れられるのだ。若い修道僧が暴力者によって拉致され無抵抗のまま女装をさせられて強姦される場面があるが、その際口紅代わりに唇に血を塗られる。アレハンドロ・ホドロフスキー監督やるなあ、と思う。スローリーに無関係な映像もある。ボスの女と砂漠を逃亡中に岩を銃撃すると水があふれ出てくる。飲み水を得るためでありえないことだが、納得できる。視聴者は途中からこの映画は映像追求に力点が置かれていることを知って、それがどんどん成功するのでもっとやれという気にさせられるのだ。
  暴力者の群れもよく描かれている。無造作に人殺しをし、犯し、酩酊し、必要以上に笑う。人間を蹂躙するには正気を消さなければならない。悪を冗談に遊びにしようとする、同じ事を一緒にすることによって仲間意識を心地よくつくってあぐらをかく。派手さを、強がりを好む。どうにもとまらない。恥ずかしいが、私にも身に覚えがないわけではない。外部の大きい力によってしか、こういう連中は矯正できないことがよくわかる。
  映画が描く暴力としては、四〇年前ならこの映画は破格であったのだろうか。拒否反応もあったとも聞くが、今日的基準ではそれほどでもない気がする。現実のこちら側ではともかくも、映画のなかでは何をやってもいい、としだいに割り切られてきたのではないか。また、軍人くずれと強盗がタッグを組んだ暴力集団やその弱者虐待、あるいは白人のメキシカンや黒人や身体障害者にたいする差別は紋切り型で、喜劇っぽさに仕立てられているが、切実な現実を反映したものではないだろう。ヒーローが地方都市を舞台にするのも古いか。欲をいえばきりがないが。いやしかし、話の展開の面白さと映像美は賞賛に値する。
  ★★★★
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(2011/03/04)
アレハンドロ・ホドロフスキーブロンティス・ホドロフスキー

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