大洋ボート

十三人の刺客

  私も映画好きの一人だが、時間の制約があって映画館に足を運ぶ機会がなかなかつくれない。月に二,三本がいっぱいの状態だが、そんなかでもこの映画は今年見たなかでは一番おもしろかった。娯楽時代劇というカテゴリーに収まるかと思うが、時代劇の伝統を手堅く踏襲しながらも今日的な視点と創意工夫が加味されていてしかも両者が力強く融合している。俳優陣、物語の運び、映像、それににじみ出てくる三池崇史監督やシナリオライターの主張等々、どれひとつとっても不満はなく、見応えがあり、満腹感をえられた。
  明石藩藩主の稲垣吾郎は憎んでも憎みきれない暴君で、女性をレイプしては周りの人もろともに斬殺するという大罪をくりかえす。抗議の切腹をする武士も出現するが、そこは大名の身分のためとがめられることがない。さらに稲垣吾郎は次期老中としての将来も約束されている。こんな男を老中にのさばられたなら天下万民にたいして甚大な被害を撒き散らすことは必定。そこで現老中の平幹二が懇意の武士役所広司に稲垣暗殺を密命する、これが話の骨格である。
  スマップの稲垣吾郎が意外な配役だが、これがなかなかはまっている。幼い頃からわがまま放題、甘やかされ放題で育って、人をいじめることに快感どころか生き甲斐さえ見いだしてしまって何の心の呵責もなく悪行をくりかえす、まるで坊ちゃんの遊びにしか見えない。これがよく表現されている。稲垣の芝居がうまいのではなく、大根に近いのだが、それがかえってなまなましいのだ。夕餉の場面で、それぞれ小皿にわけられた料理や汁物を思いついて膳のうえでまぜこぜにして食べるところがあるが、この場面など出色で、こんなことをしてもちっとも旨そうではないが、変わったことをやってみたい、思いついたらやらずにはいられないという暴君の性格がよくでている。
  稲垣の悪行のかずかずを平から知らされ、また被害者とも対面させられる役所だが、同時に視聴者もそれを知らされ、稲垣にたいする憎しみを煽られる。こんな奴、殺して当然だという気にさせられる。ところどころに出てくるが、室内の蝋燭の炎がほのかに揺れて明かりが不安定なのも、静けさのなかに無気味さが控えめに表現されていていい。
  画面はしだいに明るさをましてくる。「十三人の刺客」がそろい、暗殺の準備が着々と整えられる。江戸から明石へ帰郷する稲垣の一行を小さな宿場町で待ち伏せる。そのために宿場を町ごと買い取ってしまう。前後するが、少人数に別れての馬による出発は「さあ、はじまるぞ」という気をはやり立たせる。これぞ時代劇。
  そして「最後の五〇分」。始めの部分がめっぽうおもしろいのだ。罠があって稲垣の一行の進路退路を丸太で組んだ扉で遮断してしまうことからかじまって、爆薬は炸裂するは、屋根の上から矢の打ち放題やらで翻弄する。牛が松明を背負って駆け抜けるのもおもしろい。ここらは三池崇史の遊び心が満載だ。この部分は意外に短く、役所広司が「お命頂戴つかまつる」と宣戦布告して斬り合いに突入していく。伝統的な殺陣で食傷気味でもあるが、始めの部分の薬味の効果もあって肩入れすること必至で「最後の五〇分」はほんとうにあっという間に過ぎてしまう。もっともっとやってくれという気になる。
  武士としての生き方のちがいもある。太平の世にあってやっと天下万民のための命の捨て場所を見いだして不退転の決意に導かれる役所と、稲垣の側近市村正親の対立。彼はどんな主君であろうともあくまでも主君に仕え擁護することが武士だとする。だがこれはいささか古いテーマで、時代劇に仮託して「命の捨て場所」に思いを馳せた時代のものではないか。とおく戦争があり、戦後の政治的激動の時代背景を思い起こさせるのだ。そこで登場するのが山の住人の伊勢谷友介で、険しい山の道案内をしたのち刺客の応援をする。動機はただ「おもしろい」からで伊勢谷は武士を「かっこをつける」「えらそうにする」とか言って毛嫌いする。紐のついた袋に石を入れた武器をぶんぶんふりまわして稲垣側の武士をどんどん殺していく。致命傷を負ったかと思われた伊勢谷がケロリとして生きかえるのには何の違和感も私にはなかった。三池監督やるなあ、と思った。伊勢谷は決して死なない、死んではならない存在として、現在からタイムスリップして映画の世界へ送られたメッセージ的人物だ。死ねない、平和のなかで生きるしかない現在という時代の代表者として、いかに死ぬべきかという問いに悩む武士の世界に投げ込まれた存在だと私は納得した。もう一人死ねなかった男がいる。博打がめっぽう強いが、「命をかけるほうがおもしろい」と言って参加したのだが、誰だかは伏せておきます。この人の存在も武士道にたいする距離感を表現しているのではないか。
  最後になったが、役所広司。感情表現を最小限にとどめているのに好印象を持った。「十三人の刺客」のみならず、平幹二朗や松本幸四郎がふんばる場面では彼等を尊重しガチンコにならないように控えていると見た。
  ★★★★★
関連記事
スポンサーサイト
    01:40 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
Comment







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://oceanic.blog70.fc2.com/tb.php/407-2a2c2798
プロフィール

seha

Author:seha
FC2ブログへようこそ!

カレンダー(月別)
07 ≪│2017/08│≫ 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
カテゴリー
月別アーカイブ
全ての記事を表示する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
ブロとも申請フォーム
ブロとも一覧
ブログ内検索
RSSフィード
リンク