大洋ボート

トロッコ

  台湾の山村の緑がたいへんうつくしい。別に観光名所になりそうな絶景や奇観ではなく、緑の多い山のありふれた風景であるが、その地に何日か暮らしたような実感が得られた気がする。これがこの映画の一番の美質だ。撮影監督はリー・ピンビンという人で、是枝裕和監督の『空気人形』でも担当していたが、私はたちまちファンになった。女優のヌードや東京の高層ビル、しなびた公園など、うつくしく画面に定着されていた。別に奇をてらった撮り方ではなくきわめてオーソドックスなのだが、それでも後々印象に残るうつくしさと落ち着きがある、どっしりとしている。しかも個性的でもある。私が撮影用カメラの専門知識があればもっと詳しく語れるのだが無いので、これ以上に表現できないのが残念である。勿論、本作でも同様の美質を見いだすことができた。
  食事の場面がある。日本から台湾人の亡き夫の遺骨を携え、子供二人を連れてきた尾野真千子と祖父、それに義理の弟夫妻が食卓を囲むのだが、少し経ってから気づくが、画面の左右と下辺にわずかに窓にあたる空間の縁が映る。つまりカメラは窓を取り払った空間を利用して部屋の外から食事の風景を撮っているんだなと気づかされる。それも映画の撮影のために故意に窓を外したのではなくて、山村でも亜熱帯の夏の台湾ではこういう過ごし方をするのではないかと、ごく自然に納得させられるのだ。その家屋は瓦屋根で、外壁は板を重ねた造りで水色のペンキが塗られている。この家屋と周囲の緑とのコントラストがまた、ありふれていてかつうつくしい。これらの何気ない映像のつらなりに緻密さが感じ取れる。
  クライマックスは二人の子供がその地に慣れた気になって、母の留守の間に冒険に出かける場面で、二人は顔見知りの青年が仕事で利用するトロッコについて行く。台湾が日本領であった頃に日本人が敷設したものがいまだに残っているのだ。トロッコは天が緑におおわれた薄暗い山奥に入っていく。やがて心細くなって弟が泣き出す。その心細さをもよおさせる山の風景がうならせる。一番推奨すべき場面かも知れない。逆光の木々の緑が乳白色の霧におおわれる映像がある、さらに大木の切り株が草をまとってそびえ立つ。大人なら何でもない眺めだが都会育ちの子供には無気味かも知れない。そういう見慣れない光景が心細さに火を付けたのだろう。いたたまれなくなって二人の子供は青年が心配するのにもかかわらず元来た道を引き返す……。子供は大部分が依頼心でできているのかも知れないが、普段は自分ではそれを知らない。それを発露する主な対象の母がいなくなると急に泣き出す。泣くことで依頼心を無意識に爆発させる。幼年期には依頼の対象が母のみであったものがしだいにそこから範囲を広げていく。だが同時に泣いても何も解決しないことを知るようになる。自分が今、泣いているということを白けた気で自覚するようになって、しだいに泣かなくなる。私自身をふりかえって、そんなことも考えた。
  大人同士の思いのやりとりにはあまり感興を覚えなかった。とくに義理の父(子供にとっては祖父)が、日本国家にたいして「見捨てられた」と不満を漏らすところは、何も映画のなかで政治的メッセージでもないだろうという気がした。敗戦による日本の台湾からの撤退や日中国交回復による台湾との政府レベルでの断絶やらが背景にあると思われる。それが意見として間違っているというのではなく、日本とアジア諸国との映画合作となると、日本側が映画の内部にある主題以外のところでなにかしら政治的に気を遣わなければならないのではないのか、いつまでそんなことをしなければならないのかと、推察も交えてうんざりさせられる気がしたからである。政治的意見やお国柄や習慣やらはおのずからちがうのだろうが、わずかな滞在期間でそういう壁にぶつかるとも思えない。だがそういう不満をやわらかくつつみこむくらいのリー・ピンビンの見事な撮影ぶりであったことは、繰りかえして記しておきたい。
  ★★★★
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