大洋ボート

第9地区

  ヨハネスブルグ郊外の「第9地区」に定住するエイリアンを,人間社会が「合法的」に別の人里離れた場所に移住させようとする、これが話のはじまりだ。同都市の上空に飛来し停止した宇宙船から人間は多数のエイリアンを救出して地上に住まわせた。だが二本足で直立するエビのようなエイリアンはグロテスクで、当然のように忌み嫌われ、人間社会からは差別の対象となる。店先には「エイリアンお断り」のマークが掲げられて、まるでかつての同国南アメリカのアパルトヘイト政策がそっくりそのまま引き継がれる。黒人もまた白人といっしょになってエイリアンを差別するという構造だ。この舞台設定が皮肉が効いている。
  第9地区は不潔きわまる。住まいともいえないような強風が吹けば飛ばされそうなバラックが林立し,バラックの外はゴミの山。現在の南アメリカの黒人部落もこんな風景かもしれないなどと考えてしまう。なんでもエイリアンは車のタイヤが好物だそうで(ほかにも好物がありそうだが不明)廃品をもちこんで漁るからだ。このエイリアン地区の薄汚さ、荒涼とした風景がこの映画の基調となっている。つっこみを入れたくなるのは、エイリアンは自給自足ができない様子なので、もしそれができれば人間社会もちがった対応をとるのではないかと思ったことだ。それにまたエイリアンはキャットフードの缶詰も好物でこの販売を牛耳っているのが黒人の犯罪組織というおまけもある。たぶんエイリアンは人間に全面的に資金援助をしてもらわなければ何も購入できないのだろう。人間も最低限の生活保障をするようで、見せかけの平和共存を維持していることになる。上空に停止した宇宙船を攻撃し撃墜しないのも、エイリアン独自の武器を没収せずに所持を許すのも同じことだろうか。
  軍事部隊まで引き連れたエイリアン移住担当チームのリーダー、シャールト・コプリー(役名ヴィカス)が第9地区に立ち入ったとき、あやまってエイリアンのDNAを体内に取り込んでしまい、左手の先がエイリアンそっくりの鋭利な黒い爪に変貌してしまう。ここから物語が動き出す。普通なら「感染」の広がりを恐れてヴィカスを隔離するのが人間社会だが、それに加えて、医療研究者は彼の肉体がバイオテクノロジーに資すること千金の値をもつとみて彼をわがものにしようとするのだ。ここが従来の変身ものとはちがう新しさとなっている。殺すか意識不明にするかして、冷凍保存して研究材料にしようとするのか詳細は不明だが、危機を察知したヴィカスは逃亡する。今までのチームリーダーが一転して重火器を持つ軍隊(傭兵?)に追われる身となる。ヴィカスの逃げ込んだところが何と「第9地区」。黒人にも狙われることにもなるが、彼はエイリアンの武器を使って応戦する。エイリアン専用の重火器やロボットが彼の保有するエイリアンDNAに感応して使用可能になったのだ。かくまってくれたエイリアン親子の大事な願い(ここは省略)にもこたえて獅子奮迅の活躍をするヴィカス。このあたりのアクションはCGをたっぷり使った昨今の映画と変わらず、退屈かもしれない。
  さてヴィカスはどうなるのか。ついに発見されないままに終わるのだが、識者や家族のインタビュウが最初と最後にある。後者においては識者は某国に拉致されたのではないかと推理する。彼の妻は家の前で発見した造花について語る。そしてひとりのエイリアンが手に持って見つめる同じ造花。視聴者にははっきりとわかるのだ。このエイリアンがすっかり変身してしまったヴィカスだと。ここはもの悲しい。ほんのわずかに残った意識が妻にプレゼントした造花を見つめている。やがては意識もなにもかもヴィカスはエイリアンになってしまうようだ。解釈は自由にできる。身はエイリアンでも心は人間のままだと見なしてもよいのかもしれない。だが私は身も心もエイリアンになってしまう、そのときにはヴィカスという人間は消滅すると読みたい。グロテスクなエイリアンが瞬間ではあるが可憐に映る。反差別を貫くのは容易ではないが、その辺に貴重なヒントが隠されている気がする。
  ★★★★
関連記事
スポンサーサイト
    23:50 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
Comment







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://oceanic.blog70.fc2.com/tb.php/381-a83b6785
プロフィール

seha

Author:seha
FC2ブログへようこそ!

カレンダー(月別)
10 ≪│2017/11│≫ 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
最新の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
カテゴリー
月別アーカイブ
全ての記事を表示する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
ブロとも申請フォーム
ブロとも一覧
ブログ内検索
RSSフィード
リンク