大洋ボート

回想

  リズムは単調なほうがいい。1,2,3,4,1,2,3,4の繰り返し。熱と力を込めて打ち出すリズム。それを固守しつづけるとやがて出口が見えてくるような気がする。出口なるものがどんな相貌をしているのかはわからないが、リズムを打ち、踏みつづけることの苦闘からやっとこさ逃れられる、そんな気に漠然とさせられて、人から見ると随分執念深くリズムを刻んだものだった。一見すると、外部に働きかけているようだが、実際的にもそうにちがいないが、私がそのさいに依拠したのはこのリズムで、リズムの高まりが外部との関係の固有性や具体性に関わらず、その働きかけをよりよく有効にしてくれるという迷信を抱いていた。外部の具体性を観察するよりも余所見をするように内部のリズムを注視していた。つまり私は馬鹿だったのであるが、馬鹿から遠のくのには随分と時間がかかった。
  ことの起こりは反戦デモへの参加である。私の政治的意見は支離滅裂であったが、ベトナム戦争やら 安保条約にたいしては一応反対でった。高校一年の時であったが、多数派ではないにしろ、私と同じ意見の人も当時は少なくはなくその人たちのグループに誘われた。参加してみるとたちまち肉体がへろへろになって、こんな辛いことだとわかっていれば参加しなかっただろうと途中で後悔と寂しさに突っつかれた。両脇の二人とスクラムを組んで前の人のベルトをつかみ、同じく私の後ろの人は私のベルトをつかむという方式の隊列で、数キロの距離を緩い駆け足くらいの速度で「安保粉砕、日帝打倒」とシュプレヒコールをして進むのだが、これが傍から見るのとはちがって猛烈に体力を磨り減らした。普段の運動不足もたたった。デモが終わってほっとしたのは勿論だが、そこで私の政治活動は終わることはなく、むしろ始まってしまったのだ。数日たつと反発心が湧いてきた。俺の政治的意見とはなんとひ弱なものだったのかと恥ずかしさと反省の念に責められて、あと何回かは試してみようという気になった。そのうちに馴れてきて「安保粉砕、日帝打倒」の叫びは1,2,3,4のリズムに自然に合致してきた。
  単純なリズムだが、肉体の制限をかけられたうえ政治的観念を背負って走るとリズムはリズムの刻みを固守しようとして踏ん張り、そこにより多量のエネルギーが必要となる。リズムが力を獲得したにちがいないが、そこになにかしら人間的な向上をも私は委ねてしまった。マルクス主義には社会進化論的な見地があって、政治運動によって必ずや革命を通じて社会主義に到達するという金科玉条があるが、そういう「約束された未来」への歩みの基礎としても私はリズムを見なしたのだった。リズムが一番で、周囲はすべて雑駁物でやがてはこのリズムに収斂されるべき存在にしか見えなかった。つまり私はリズムを中心にして動き優越感にひたってもいた。
  十代後半がこういうことだったので、かかるリズムと政治運動は私の自己形成に深く関わってしまった。間違いだったと気づいてもそこへ引き返してやり直すことはできない。そして政治運動から身を退いた後も「リズム」は頑固に私のなかに居座った。いや、それを仕事や生活のなかに直接的に適用できないからこそむしろ幻影として私のなかに分離されて根を下ろした。私の仕事は当時も今も同じ物作りであるが、そこで大事なことは対象物に寄り添うようにして大事に扱うことであるが、一方私のなかのリズムはそんな細かいことは省略して前へ前へ進め、そのなかで酔えと命ずる性質をもっている。だから私には仕事よりもリズムが格段に面白く見えた。それと一体になれないことのもどかしさを日々痛感していたし、腑抜けの状態でもあったのだ。いったいあのころの自分とは何だったのかとよく考えた。政治論に関してはやらなければならないという思いはあったが、自然に興味を失っていくのは明らかでどうにもならなかった。あの頃の自分を考えるよりも幻想のなかでもいいからとりもどしたい、そちらの願望が強かった。
  自分一人の力で何とでもなる。何をどうしようという具体的目標はとくにない。リズムがふりまく陶酔と毒に没入すれば死だって知らぬ間に受け入れられる。私が恐いながらも憧れていた「リズム」である。
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