大洋ボート

想像力

  暗闇のなかで人の集団が親しげに集まっている。人数はそれほど多くはないようだ。男同士か女も混じっているのかはわからない。車座になって酒を酌み交わすのか、ダンスをするのか、そこから発展して女がいるのなら乱交パーティに及ぶのか、あるい暴力的な集団リンチが開始されようとするのか、はたまた政治的な謀議のたぐいのために知恵を絞り出して確認し合うのか。
  こういう曖昧ななかにも熱気を帯びた人の集まりをたびたび想像した。過去形で書くが、現在においてもその痕跡は私のなかにある。ただかかる人の集団は暗闇のなかにあるからつぶさには見えない。見えないから逆にああでもないこうでもないと仮定を重ねていくが、決定には至らない。無論私の勝手な想像だから確たる根拠にもとづいてその映像の何たるかを決定することは、私にもその映像の側にも何も材料の一つもないのだけれど。ふりかえれば、むしろ決定したくはない、決められてしまうとありきたりでつまらないという思いが、私のなかに気づかずに巣食っていたように思われる。想像なら逆に私が気儘に決めてしまっても何らさしつかえないから。その映像が暗闇におおわれてかすかに窺うことしかできないことが、またどうにでも解釈を変えられることが私の非決定を最初から保障していたともいえる。また私はこの想像による映像に少なくとも何らかの刺激をもとめてきたことだけは確かである。
  私は日常の生活では漬かることのできない暴力や性にひそかに憧れていた。暴力や暴力的な性行為を即座に肯定する者では私はないが、日常における飽き足りなさや退屈さがこういう映像を呼び込んだといえる。日常になかなか腰が据わらないという自信のなさもあった。また「日常」という以前に、十代後半に政治運動にとびこんで活動した履歴があって、そこでは政治権力に対する暴力を肯定する立場に立ったので、その痕跡を体内に抱え込んでいて、その影響が多分にあった。私が政治活動をやめたのは単に疲れたからであり、その政治的な思想面に否定の刻印を押したからではない。今ではそれを否定できるが、そこに至までには十年以上はかかっているので、その間は以前の政治活動への内なる執着は少しずつ退いていく熱とともにくどくどとあった。自分から身を退いたものの、行動を何者かに中断させられたような気分もあった。だから私は未練がましい感情とともに政治的暴力や衣をはぎ取られた暴力そのものと、ごく自然に向き合う期間がしばらくつづいたのである。今から思うと、未練と客観的な立場に立つこととが私のなかでうまくバランスがとれていなかったし、そのことに自分でもなかば気づいていた。すると考えたり想像したりすること自体に厭気がさしてくるはずだが、想像や空想とは衰えても衰えたなりにあっさりと脳内に流入してくるので、大げさに言えば自分の肉体を滅ぼさないかぎりは寸断しようがなかった。
  想像と空想はなおつづいた。私が抱く映像は暴力のない世界ではないが、暴力が画然として存在する世界でもなく、暴力が影や臭いとして立ち昇ってくる世界だ。暗闇の幕がかかっているので確定することができない。人は暴力を知ることができる。別にその行為の実行者にならなくてもその被害者を知ることによって、目の当たりにしなくても、葬儀などによって死者を見ることによってできる。暴力の被害者とは負傷者や死者であり、死とは暴力によるものであっても病魔や事故によるものであっても死として平等で同一だからだ。死を知れば暴力を知ることができる。ならば私は暴力実行者の思想を知りたいのか、それはある程度は知っているので、それ以上詳しく知りたいとも思わない。だが反面、実行者の確信ある表情ややりとげたあとの勝利感、そこでの湯気が立つような感情のたゆたい、ほくそ笑み、そういうものに実行は拒否しながらも想像や空想でたどりついてみたいという願望は非常にうしろめたいが、ある。そうならば、暗闇での映像の人物群は私の部分としての「同志」なのかもしれない。これは政治運動の時代に私が暴力において不徹底であったという過去の思いの(暴力をふるわなかったのではない)反動からくるとも考えられる。だが私はやはり嫌だ。暴力者にすり寄りたいという感情は微弱であっても今も残り滓があるが葬り去りたい。それは自分の一部を形成するものであるらしいので引きずらないわけにはいかないから、距離をとったり形骸化することはやらないといけない。自然に、私の歩みはそういうふうに形成された。
  想像することそれ自体が魔であるとの反応が、今の私にはある。想像した瞬間に想像の世界からうしろで襟首をつかまれたように引き戻される。そういう瞬間だけは自分自身だと誇っていいのだと思う。暗闇の世界をかきまわすのはこれからだ。

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