大洋ボート

イングロリアス・バスターズ

  ブラッド・ピット率いる特殊部隊がヒトラー爆殺作戦を企てるという話。戦争アクションとしては、こういう話はとくに目新しいものではない。むしろ飽き飽きしているといってもいいくらいだから、話としてではなく、どんな風に工夫を凝らして見せるかというところに出来映えがかかってくる。戦争という背景を杓子定規にとらえるのではなく、時代劇一般の舞台として、また多分に喜劇的な扱いをしたことがいいのではないかと思った。ヒトラーとゲッペルスは、いってみれば悪代官と越後屋のように見えなくもない。また彼等二人が連合軍の進攻せまる一九四四年のパリで仲良く映画を見るというのも架空のことだとは思うが、かえって面白い。

  いかに見せるかという問題意識をクエンティン・タランティーノ監督はもっている。視聴者の相撲でいう「立ち会い負け」をつくりだすのだ。パリの居酒屋に集結した、ドイツ兵に化けた連合軍のスパイ連。連合軍に通牒したドイツ人の女優も混じっている。本物のドイツ兵もいるなかにゲシュタポ兵もいて、くだんの連中をあやしむ。やりとりがあったあとゲシュタポ兵はついに正体を見破り銃口を突きつけるが、スパイのなかの一人もテーブルの下でゲシュタポ兵の股間に銃口をさだめている。まわりのドイツ兵も武器を用意する。さあ、どうなるか!撃ち合いになれば両方とも死ぬ。それを双方とも意識する少しの時間が流れる。緊張感あるしじまだ。視聴者は双方が睨みあったまま休戦に持っていくのではないかと考えて、緊張がゆるむ。まさにその瞬間に壮絶な撃ち合いが起こるのだ。これが視聴者が「立ち会い負け」するという意味で、気圧されながらの爽快さがもたらされる。撃ち合いもあっという間に終わる。個々の動きを追い切れないことがまた爽快だ。

  炎が立ちはじめた映画館のスクリーンには、映画館主であるユダヤ人女性のナチスとヒトラーへの呪いを込めた絶叫が映される。もっと語るのかなと思うと意外に早く打ち切られる。そしてまもなく爆破のシーンへとつづく。間髪を置かずということをタランティーノ監督はここでも意識している。編集の妙だ。

  逆に会話の長さを視聴者に意識させる冒頭の場面もいい。クリストフ・ヴァルツが演じるナチス将校が、ユダヤ人を匿っているとおもわれる農家を訪ねていって、その主人を取り調べるのだが、フランス語で喋っていたヴァルツが、フランス語よりも英語のほうが得意だから英語で喋ろうと言いだして農夫もつきあわされる。この場面を見終わった後、取り調べの方法としては巧妙だと唸った。フランス人にとってはいうまでもなくフランス語が母国語で英語は外国語。外国語で話すとは、思っていることを外国語に置き換えることだが、思っていることをはっきりさせたうえでそれを素直さをもって外国語に置きかえることが通常だ。つまりはこの場面の場合、ユダヤ人一家を床下に匿っていることを明瞭に意識しなけれなならず、嘘を言うとは、その反対のことを注意深く外国語に置きかえなければならない。思っていることを素直に外国語で話すよりも、嘘を言うほうが、外国語との距離感ができるのではないか。比較して緊張をともなうのではないか。外国語で事実を話すことには慣れられても、嘘をつくことにはなかなか慣れることができない。そういえばわかりやすいか。外国語をあやつれない私がこんな推測をするのは生意気だが。ましてや相手はやり手のユダヤ人狩りだ。堪えきれなくなって農夫はついに白状してしまう。ここでは農夫は「立ち会い負け」ではなく、じりじりと寄り切られる。
★★★★

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