大洋ボート

招く部屋

あなたがたはすでに居て三人並んで佇んでいた 雑談でもしていたのかぼくが入っていったとき少し驚いたようにふりむいたが もっと驚いたのはぼくのほうだ そこはぼくの部屋だったはずである そこであなたがたと会う約束をしたのだったか ぼくはすっかり忘れてしまっていたが 少なくとも出入り自由をだれかれにたいしても喧伝していたので 約束がなくても ドアを開けることはあなたがた三人の自由であると ぼくは認めないわけにはいかなかった

ぼくはわざわざ好き好んで潜泳をして岸辺にたどりつくように部屋に着いた 買い物の用事でもあったのか 時間に追われながらメモを片手に矢継ぎ早にそれを済ませてきたのか それとも愚鈍の海にやすやすとたぶらかされてあちこちで油を売っていたのか 得意満面になって多くの人々と 太陽や月や刀に関して話しこんでいたのか それはそれで楽しくもあったのか ともかくも 息を切らしながら浜辺をのぼっていくと黒々とした三本のまだ幼い松の木があり その曇った色彩に団欒や睡眠をごくあたりまえに求めるように誘われて近づいていくと いきなり松の木が肉の幕を風にふくらませた それがあなたがただった 少し驚いたようにふりむいたが もっと驚いたのはぼくのほうだった


ぼくはぼく自身を忘れかけていた
それでいいと思って
またはなかば投げやりに
「大いなる幻影」を生かすためにという理由で
ぼくはぼく自身を忘れかけていた
そんななかであなたがた三人は
ぼくという存在をはっきりと認めた
まるで飴玉を舌で転がすように余裕たっぷりに
ぼくの姿に集中してから
当のぼくに見られることに気づいて
ぼくの瞳の奥に刻みこまれることをおそれて
尻尾を収納するようにあわてて引っ込めた
それにしても
誘われるようにあなたがた三人は 
ぼくという人間にごく当たり前に興味を持って
ぼくに見入ったのではないか
尻尾をひっこめたときのバツの悪そうな表情を
ぼくは見逃さなかった。

あなたがたにとって
ぼくはどういう人間に映ったのだろうか
ぼくにとってはぼくという人間には
固有の意味などあろうはずもなかった
真新しい材木に鑿を打ちこんで青空に響かせるように
愚直そのものの力瘤で
笑い放つことも可能と驕りたかぶりたかったのだが
あなたがたはいともやすやすと
ぼくという個の人間の意味づけを
瞬時の観察ののちにやってのけたかにみえた
ぼくのぼく自身にたいする意味づけとは
まったく別個の時間のなかでやってのけた
「大いなる幻影」などあなたがたははじめから持たなかったから
「大いなる幻影」を参考にすることもなく
ただ眼の前に生起するぼくという人間を見て
あなたがたの時間のなかでごく当たり前に判断したのだ
あなたがたの時間とそのなかのぼくが
ぼくになんの断りもなく形成されて
鋭くもやさしい山のように見えて
ぼくは無性に腹立たしかった
しかもその腹立たしさと嫉妬は
ぼくのぼく自身にたいする予想を超えるほど
蹂躙するほどはげしいものだった
そのはげしさはたじろぐに値する規模だったが
たじろぐ暇もなく
あなたがた三人への
いわれのない憎悪に連続的・膨張的に転化した
まるであなたがたの瞬時に対抗するかのような瞬時
ぼくのなかに眠っていた動物が露出したのだ
ぼくはそれまで知らないぼくになっていた


あなた方三人のなかで形成されたであろうぼくの像に ぼくは興味をことさらもたないし知ろうとも思わなかったとそのときは思ったのだが 実際知らなかったのだが あなたがたのなかのぼくの像に ぼく自身が生涯出会うことができないことの寂しさと僻み根性がつのったことは否定できはしない 否定し消滅させたつもりだったが 感覚はのこり痕跡のようにひきずっっていた あなたがたのなかのぼくに出会えないということは、ぼくがあなたがた自身にも出会えないということをも意味していた ぼくはそういうぼくのぐらつきやいくつかの意外な反応を認めたくはなかった ただただぼくはぼくという人間を 以前からの連続性にしたがって後生大事にしたかった なかば惰性にしたがって 出たとこ勝負の思い上がりときには武器として 後生大事にしたいという思いを何層倍もつのらせた 選択の余地はなかった 言葉はなかった 「大いなる幻影」から吐き出される言葉とその受容体としてのぼくが ぼくにとっての言葉の領域のすべてであり、それ以外の領域で ぼくは感情と汗をやくざっぽく膨らましていたのだ

憎悪は咽喉から逆流した ぼくはそれまで知らないぼくになっていた そしてそういう変貌した二番目のぼくをまたしてもあなたがた三人は視認した ぼくはぼく自身を隠匿することができないままに  あなたがたへの憎悪に支配された一瞬を体感したので あなたがたを視界の中央に据えて三白眼で憎悪の矢を放出しかかったので まさにあなたがたはそのときのぼくを脳内に刻み込んだ そのときにかぎってはぼくとあなたがたとのぼくにたいする像は見事に一致する ああ そのときの夢! ではない、すこし遅れてからの夢! 憎悪と同量かつ異質のなんらかの感情を抱きながら言葉の矢をあなたがたに向かって昂然として放つぼくがいたなら! 正直に言おう 「大いなる幻影」はそんなどんづまりのさなかに言葉そのものとしてではなく ぼんやりした啓示の類をぼくにかすかに落としたのだ 羽毛の何枚かがひらひら降ってきた ぼくはぼくを破壊しなければならない そんな思いがしきりにぼくのなかを行き来した 「言葉」は言葉という仮象であった 言葉かそれ以外のものによってかはわからないが‥‥。あなたがた三人は今も偉大な山として壁としてぼくの前に立ちはだかる
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    22:19 | Trackback : 0 | Comment : 2 | Top
Comment
2009.11.17 Tue 22:57  |  seha #-
stardustさん、
ありがとうございます、恐縮です。

この詩は未完成で、まだまだ推敲の余地があります。
いずれにしても
課題はずっと残りそうなので、別の形ででも
追究していきたいとおもいます。

> ・・・帰ってきましたか?
> 気になっていました。

猫のことですか?
残念ながらいまでも行方不明です。
半分以上、あきらめています。

Re: タイトルなし  [URL] [Edit]
2009.11.17 Tue 05:09  |  stardust #-
おはようございます

こんな詩が書けたらいいな とため息です
この間 以前の詩も少し読ませていただいたのですが
「港にて」が 今の私の気持ちにフィットで^^ さっきもう一回読みました。

・・・帰ってきましたか?
気になっていました。
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