大洋ボート

九月に降る風

 台湾の高校生の青春群像。大暴れというほどではないが、酒に煙草に無免許でのバイク運転と、7,8人のグループがこの年代特有の享楽的、反抗的行動をとる。女生徒への興味とナンパに挑戦する男もいる。それに彼等共通のあこがれが某プロ野球選手で、一緒に観戦して熱狂的な声援を送る。

 卒業してまもなく、主人公チャン・チェ(トウ)が高校生だった時間をふりかえるという出だしがいい。台湾は亜熱帯だから、制服はブレザーではなく半袖の開襟シャツだ。水色のその制服が壁にかかっている。胸には卒業記念にあたるのか、赤いリボンが飾られてある。わきには段ボール箱が置いてある。その中身はわからないが、後半明らかになって、最後にはこの出だしの場面にもどって、トウにとっての箱の中身の意味が理解できる仕組みになっている。

 高校や大学は特異な場所と時間だ。許容範囲はあるが、欲望が多分に解放される。それまでは一人でうしろめたさとともにあこがれていた遊びが造作もなく実現してしまう。当然、仲間意識、団結の気持ちが生れる。同じプロ野球選手を応援するのは、その象徴だ。だが映画はそれを信じすぎて躓く少年たちを描く。ひとりひとりの思いや欲望はやはり微妙にちがうのだ。また当然、仲間の行動の逐一をほかのメンバーが知ることもできない。

 トウが見ず知らずの男のグループに暴行を受ける場面がある。トウの友人でグループのリーダー格のイェンがある女性をナンパしたのだが、その女性のボーイフレンドが怒って、トウが仲間と遊んでいるところに乗りこんできたのだ。トウ自身の問題ではないが、トウがイェンの友人であることを男は知っていたのかもしれない。怒りは収まらず、顔面に強いパンチを浴びせて去る。だが事件はこれだけでは終わらない。イェンはトウを気の毒がったのか、後日仲間をつれて、教室にいるトウのところへいく。顔の傷の生々しいトウだが、イェンらは笑みを浮かべながら、彼の机に飲み干した飲料水の瓶を置くのだ。これはトウにとってはいじめとまったく同じだ。だがイェンらにとってはいじめではない。この年代特有の照れで、そういう誤解をあたえかねない形でしか同情を表現できないのだ。私はそう受けとった。(トウが喧嘩に負けたと彼等が解釈したうえでの軽蔑の意味もあるだろう)ここは鮮やかな場面だ。

 トウとイェンには共通のガールフレンドがいる。その女性はハンサムでやんちゃなイェンも、勉強ができるトウも好きだが、最後にはトウに惹かれていき、イェンとの別れを決意する……。

 メンバーの一年生は三年生のバイク無免許運転の身代わりになって警察に捕まる。その三年生はもっけの幸いと知らん顔。これを知った別の三年生が、その三年生をバットをもって義憤にふるえる形相で追いかける場面があるが、たじろいでしまう。校舎内の行き止まりに追い詰めて、いまにもバットで滅多打ちしようとするとき、仲間も制止しようとして追いかけてくる。このときカメラは天から見下ろす角度で撮る。このカメラワークも納得がいく。高校時代というほんのわずかだが過去になってしまった時間を、冷静さを持ってとらえようとする制作者の意図を読み取れる気がした。バットは人間には向いていかない。そのかわり、トイレのドアを何回も猛烈に打ちつけて破壊してしまう。ここもわかる。個人の持つ圧倒的な暴力は人間にはよほどではないと向けられないが、義憤と一体化した暴力志向は、身近なものに当たりちらさずにはいられないのだ。

 高校は特異な時間と場所だ。そしてたちまち過ぎ去ってしまうものでもある。だから、そこにいる間はいたずらに興奮して何が何だかわからない。問題がなにひとつ解決しないままに過ぎ去ってしまう。ならば、ふりかえって考えることで解決に近づくしかない。そんな感慨をえた。また、少し触れたが、校舎を意識して撮っている。生徒の集団にとってはせまい階段も、ひとりで通行すると、だだっぴろく頑丈に見える。それも先と同じく天から撮る。屋上もうまく取り入れられている。外の町並みと学校との隔絶性が語られている。校舎という分厚い隔離装置から出て行って、自分の家と実社会とを往復する時間帯にならないと、学校での出来事は見えてこない。

 イェンを演じるリディアン・ヴォーンという若い俳優、トム・クルーズとそっくりな顔つきをしている。イギリス人と台湾人のハーフだそうだ。

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「九月に降る風」★★★★ リディアン・ヴォーン、チャン・チエ、ジェニファー・チュウ、 ワン・ポーチエ、リン・チータイ、シェン・ウェイニエン出演 トム・リン監督、台湾 、107分 、2008年 、2009-08-29公開                     → ... 2009.10.11 20:14
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