大洋ボート

南極料理人

 「南極ドーム富士基地」での一年以上にわたる隊員の生活が、調理担当の堺雅人の視線を中心に描かれる。そこは沿岸部の昭和基地から一千キロも離れた内陸部にある。隊員は八名。楽しみといえば、毎日の料理。食事時間ともなると、同じ食卓を囲んで陽気に食べ、かつ酒を飲む。各自好きな食べ物がある。それを腹におさめることが嗜好を満足させ、自分というものの確認になる。また日本での生活を思い起こさせ、過去とのつながりを持続させることにもなる。調理師の堺雅人は、毎日ちがったメニューで隊員を満足させなければならない。

 南極といっても、ペンギンやアザラシはいない場所だ。またオーロラの話題が出てくるが映されることはないので、もっぱら室内劇、つまりスタジオ撮影が大部分で、そこは少し不満の残るところだろうか。また零下五十度以下という極寒もそれほど表現されていない。言ってみれば、基地とは、高価な通信費を払って本土と連絡が取れたり酒が飲めたりと、自由は比較的あるが、脱出不可能な牢獄のような存在だ。

 その牢獄をいかにして楽しくするかが課題で、その課題の重要な部分を堺雅人が担っているのだ。同僚とはいえ、男八人が長期にわたって顔をつきあわす、一年以上帰れない、これでストレスが溜まらないわけがないのだ。そこは理性と忍耐力ある隊員がそろっているから、容易には崩れない。朝は、レオタード姿の女性の体操のビデオを流して全員で体を動かしたり、夕食後は、メンバーのある部分は麻雀に興じたりと、リラックスムードを工夫する。全員が家族的な仲のよさを維持し、また演出をして一年を乗り越えようとする。「家族」という思い込みでもあり、また「お芝居」でもある。だがそこはやはり緊張を強いられる。飽きも来る。肩の荷を降ろしたくなろうというものだ。

 そこで、せめて目先を変えようと、基地生活での日常の不満を食い物にぶつけてくる。地質調査や気象観測など、日々の仕事そのものはなおざりにはできないから、変えられるのは食い物ぐらいしかない。あるとき、伊勢海老が食材にあるという情報が全員に行き渡ると、いっせいに「エビフライ!」というシュプレヒコールで、堺雅人を催促する。伊勢海老なら、フライよりも刺身がセオリーだと堺は当然主張するが、隊員たちは譲らない。そういうことで、少しでも食の日常を変えてみたいからだ。そして馬鹿でかい伊勢海老のフライが出来上がり、全員が食するが、やはり刺身のほうがよかったという結論になる。

 こういう調理人・堺雅人と隊員の意見の違いや堺の工夫は随所に見られて、おもしろい。そして決定打は、堺自身が家族との生活をなつかしむ場面だろう。寝転んで家族と一緒にテレビを見ている。堺がおならをして後ろにいる妻や子が堺のお尻を蹴る、これが二回ほど出てくるが、こういう家族ならではのおもいきりだらーんとした、ありふれた日常がたまらなくなつかしい。これはわかる! 基地の生活が「家族的」だといっても、ここまでのくつろぎは得られないのだ。堺が仕事をサボタージュして(その理由は省略)ほかの隊員が調理した食事。油でべたべたした唐揚が出てくるが、堺はおもわず泣いてしまう。妻の作った唐揚とそっくりの味だったからだ。この涙もわかる。料理はあるときは旨さやセオリー以上に思い出につながるものだからだ。

 堺雅人は主演として安定している。八人のなかではただひとり女性的な顔立ちで、目立って得をしている。またそれが隊員をなごませるのにも適っているのではないかとみた。南極基地という、いわば異常な日常の風景をこまやかに拾いあげた秀作だ。

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