大洋ボート

わが教え子、ヒトラー(2007/ドイツ)

わが教え子、ヒトラー デラックス版 [DVD]わが教え子、ヒトラー デラックス版 [DVD]
(2009/04/24)
ウルリッヒ・ミューエヘルゲ・シュナイダー

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 敗色濃厚となったナチスの体制を立て直すため、宣伝相ゲッペルスは1945年の新年冒頭に、ヒトラーに国民を前にして大演説をやらせようと計画した。だがヒトラーは意気消沈してしまっている。そこでゲッペルスはかつてヒトラーに演説指導をしたユダヤ人俳優を収容所からひっぱってきて、ふたたびヒトラーのもとにつかせた。だが新年まではたったの5日間しかない。

 架空の話だろう。ヒトラー体制にあらたな光をあてるというよりは、それを舞台として借りた喜劇である。またそこから私に見えてきたのは、今日のユダヤ人のドイツ(人)に対する優越感であり、また優越感にもとづいた対等の関係構築への意志といったものだ。戦後60年以上経った。ユダヤ人は、逃亡したナチス戦犯を追跡し法廷におくりこんだ。また戦後ドイツから巨額の賠償金をぶんどったという。必要なことだっただろうが、ドイツに対してやるべきことはやってしまったという一服感はあるのではないか。あの戦争から生き延びたユダヤ人の人々も高齢化がすすんでいる。ヒトラーとドイツに対する憎しみは持続させなければならないのかもしれないが、切り裂きたいような憎しみでは少しずつなくなっているのではないか。むしろやるべきことはやったという達成感が占められるのではないか。とくにこの映画の監督・脚本のダニー・レヴィという人がユダヤ人であるだけに、そんなことを思わずにいられなかった。

 ユダヤ人俳優の役は『善き人のためのソナタ』が印象に残るウルリッヒ・ミューエ。姿勢や発声など型どおりの指導をはじめはこわごわ行なうが、この映画のヒトラーは馬鹿に素直である。ウルリッヒ・ミューエをすっかり信用してしまって、意気回復に努める。ミューエは、演説は力を抜いて愛情をこめて話しかけなければならないという。そうなのだろうが、腕立て伏せをやらせたり、果ては犬の四つんばいのポーズをとらせたりするのは、どうなんだろうか。本物のヒトラーがそういうことを承諾しそうにないのではないかという疑問だけではない。ヒトラーという人物を借りてドイツ人を随分と見下そうとしている、それによって溜飲を下げる、それを前提にしてドイツ人との今日的関係を視野に入れようとするのではないか。そんな風に勘ぐりたくなった。優越感にもとづいた同情だろうか。だが、ヒトラーがいくら極悪人であったとしても、映画のなかで、こういう扱いをするのは愉快ではない、つまらないのだ。

 ヒトラー暗殺も一度二度と考えたウルリッヒ・ミューエだが、奇妙にも二人の間には友情めいた感情が生れてくる。これを見せたかったんだな監督は。だが、たった5日間でこんなに簡単に精神が蘇生できるなど、土台無理な話である。最後にはゲッペルスの意図は別のところにあることが暴露されるが、これも歴史的にはありえないことだ。ストーリーを面白くしようとして、かき回しすぎている。
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第2次世界大戦末期のドイツを舞台に、闘志を失ったヒトラーと、彼にスピーチを教えることになったユダヤ人元演劇教授の複雑な関係を描くヒューマンドラマ。監督は『ショコラーデ』のダニー・レヴィ。『善き人のためのソナタ』のウルリッヒ・ミューエが、同胞のためにヒト 2009.08.24 14:43
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