大洋ボート

湊かなえ『告白』

告白告白
(2008/08/05)
湊 かなえ

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 読後感の悪い小説だ。わが子を殺された中学校の女性教師が、その犯人である担任のクラスの生徒二人に対して、警察に訴えることをわざわざ回避して私的制裁をくわえるという話だが、殺伐としている。「私と同じ目にあわせてやりたい」という復讐感情の奥底から、復讐と暴力を行使する者の快感がストレートにわきあがってくる。女教師は得意になっていて、下品だ。わが子への悼みの感情など、まるで読者は忘れさせられるのだ。「快楽殺人」という言葉が浮かんでくる。「学園バイオレンス小説」とでもいうのか。

 渡辺修哉は成績優秀で科学工作が好きな生徒である。彼は物心ついた頃から母親に科学知識を教えられて、幸福な時間を過ごすことができた。だが母はもともと電気科学の研究者であり、研究への執着が断ち切れずに大学に職を求めて離婚し、修哉を置いていった。このときから修哉の転落がはじまる。母が見ていてくれることを期待してウェブサイトを開設し、そこで人を殺傷する道具を開発しては発表した。母からの連絡はないので新聞に載るほどの大きな事件を引き起こそうとするに至って、クラスメイトの下村直樹を誘った。二人はその標的を担任の森口悠子の幼い娘に決めた。森口はシングルマザーで、娘を預けていた女性が入院したので、彼女が退院するまでの期間、娘(愛美・まなみ)を保健室につれてきていたのだ。愛美がほしがっていた「わたうさちゃん」のポシェットを二人は手に入れて、それに手を加えて、ホックにさわると感電する仕組みにした。プールサイドにいた愛美に二人はポシェットをプレゼントして、愛美は触ってしまい卒倒した。死にはいたらなかったが、狼狽した下村直樹が水死事故に見せるために愛美をプールに沈ませてしまったのである。

 森口は修哉を追求した結果、真相を知った。だが水死事故だと結論付けた警察に訴えることはせずに、この二人に対して私的復讐を実行する。その中学は牛乳普及のモデル校になっていたから、彼女は犯人の生徒二人の牛乳パックにエイズ患者の血液を混入して飲ませるのである。しかも一年の終業式のホームルームの席で、これを堂々とクラスの生徒全員に発表するのだ。森口は退職を決めているから大胆になれるときだ。わが子を殺されて怒りが心頭に達するのは当然としても、教師にしては公共心がおそろしく欠落してはいまいか。昨今の教師という職業の人、とんでもないことをやらかして驚かせることが少なくないので、こういう人がいても不思議ではないのだが。

 小説として一番に疑問なのは、教師が発表したこの「事実」が二年の二学期がはじまるまで外部にまったく漏れないということだ。何故かクラス替えのないそのクラスは重苦しい空気に支配されたとのことだが、それだけで済むとは到底考えられない。真犯人がクラス内に二人いて、悪い血を飲まされたとあっては親なり学校なりにいちはやく伝わるのが確実だと思われる。新しい担任の教師もこのことを当然知らないのだが、それを女生徒の一人が得意げに軽蔑するのもおかしい。作者は密室状態をつくりたかったのだろうが、ちょっとなあ。

 犯人の生徒二人のその後の軌跡はよく書かれている。修哉はいちはやく自分が感染から逃れられていることを発見して、さらに武器研究にのめりこむ。一方の直樹は、じぶんは死ぬ運命であると確信してしまい、学校には行かず「ひきこもり」が常態化する。過干渉の母親も巻き込んで自滅の坂を転がっていく。ここはさすがに同情したくなる。そして森口はまた、修哉に対する第二の復讐に着手する。しかも標的は修哉ではなく、その人が死ねば修哉が悲しみで気が狂ってもおかしくはない人物だ。その人物は事件のことは何も知らない。こう書けばだれだか推測は可能だろう。

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