大洋ボート

いのちの食べ方(2005/ドイツ・オーストリア)

いのちの食べかた [DVD]いのちの食べかた [DVD]
(2008/11/29)
不明

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 大量生産と大量消費の時代である。道具、機械類は勿論のこと、食糧もまた例外ではない。この記録映画はこの時代特有のそうした食糧生産の徹底した効率化、システム化された姿をつとめて冷静にカメラに収めることに成功している。説教めいたナレーションがあるわけではない。理論的説明もない。作業員は登場するが、インタビューはない。ただただカメラに収められた、見事なまでにすみずみまで機械化され、大規模化され、流れ作業化された、日本人がイメージする農業とはまるでかけ離れた大工場そのものの食糧生産のありさまをしっかりと目に焼き付ければいいのだ。また食糧生産といっても、動物の肉の場合は当然、屠殺という残酷な所業を経なければならないが、その映像もしっかりと収められている。

 熟練を要する作業は見たところ、ほとんど登場しない。トマトの収穫ならおそろしいほどの広さのビニールハウスを作業員が乗った車両がゆっくり動いていって、赤く熟した果実をとり、緑のものはそのままにしておく。ここでは日本の農家とのちがいは規模である。作付け面積あたりの人数が極限まで切り詰められている。コスト削減効果をあげるためだろう。ブラジルあたりだろうか、コーヒー豆の収穫では機械つきの車両が木の幹の根元をアームでしっかり固定したかと見ると猛烈な力でバイヴレーションをかけて豆を揺さぶり落とす。車両の運転手のほかはたった一人。木にわずかに残った豆を棒でたたいて落とすだけの役の人しかいない。さらに地に落ちた大量の豆をすくいあげて運搬するのも別の車両だ。一昔前ならもっと作業員が多くいただろうと推察される。俯瞰映像では、線で区切ったように等間隔にコーヒーの木が平坦な山に植えられている。ヘアブラシみたいに。

 植物食糧なら種まきやら水遣りやら除草やらの時期や量をこと細かく計画し配慮しなければならないと思うが、それは現場の作業員よりも管理者の立場の人が統括するのだろうが、そういう人はこの映画には出てこない。あくまで現場の光景の連続なのだ。

 牛や豚を食肉化する場面は残酷であるが、そうかといってこれをやめると人類は菜食主義者以外は生きていけないことになる。やむをえない。できればこういう職業には就きたくないという思いは、正直言って私にはある。だがどうだろうか、ほかに仕事がなければやるかもしれない。またこういう職業人を忌避してはならないという思いをもたなければならないとも思わされる。しかし軽くはない課題だ。

 間近に迫った死を知らない牛が、囲いのついたベルトコンベアに載せられて寝かされた状態で運ばれてくる。一人の作業員が牛の額にコードのついたパイプ状のものをあてがうと牛はあっさりと気絶する。これは絶命ではなく気絶だと私は解釈したい。その次の工程で牛はブラックボックスのような外部からは見透かせない場所に運ばれるからで、死はそこで最終的に人間の手によってではなく機械によってくだされるのではないか。電気ショックを与える人が屠殺者であれば、この人はノイローゼになってしまうだろう。殺生を人間から少しでも遠ざけることでこういう作業は成り立つのではないだろうか。死を通過した牛は後ろ足をロープに吊られた状態で運ばれてきて、解体の作業に入るが、血液や涎が大量に流れるものの、作業員としては、直接絶命させるよりも死後の肉体をかっさばくほうがよほど気が楽なのではないかと、私は勝手な想像をする。勿論、作業員自身にしかわからない世界である。

 普段接することのできない世界に誘われ見させられ、考えさせられる映画である。

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『いのちの食べかた』 (Unser täglich Brot、英語題:Our Daily Bread) は、2005年のドイツ映画。食べ物の大規模・大量生産の現場を描いたドキュメンタリー映画。ナレーションやインタビューを入れず、生産現場とそこで働く人々を映し出すのみの映画である。 |いのち 2009.07.26 09:40
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