大洋ボート

ウェディングベルを鳴らせ!

 生きとし生けるもの、そのすべてを爆笑で包みこんでしまう。悪人も善人も、動物も人間も一切合切を巻きこんで爆笑を起こさせて前へ前へと突き進んでいく。その果てにあるものは何か。生きることは楽しい、生きることはドタバタ喜劇だ、さあ、みんなで笑いあって楽しく生きようぜ、この国を建設していこうぜ、どんなことがあろうと未来は明るいぜ、というような頑固なまでの哲学の実現だ! カメラにおさめられたすべての人間が動物が、その哲学を注入されて輝く、躍動する、巻きこまれる、鬱憤をまるでちっぽけなもののように笑い飛ばす!

 エミール・クストリッツァ監督は今回も素晴らしい映画をつくってくれた。前作の『ライフ・イズ・ミラクル』では旧ユーゴ内戦下で、敵方の捕虜の女性と恋仲になるという主人公の破天荒な人生を描いたが、今回はそういう深刻さは前面には出てこない。もっとも暗さがまったくないわけではないが、前作にもそしてクストリッツァ監督作品の共通項である笑いの創造性に重点が置かれて、これでもかこれでもかという具合に全体に噴出する。暗さといえば、悪役である土建屋兼地上げ屋兼売春業者のグループの存在がある。彼らは瓦解したアメリカの貿易センタービルに匹敵する大建築物をセルビアにつくろうとして農民を敵視するのだが、その一方ではヒロインの女性の母親を売春宿で働かせ、なおかつヒロインまでもそこに閉じ込めようとする。また彼らはたかが無銭飲食をした人を平気で殺したり、獣姦を嗜好する男たちである。ならず者が治安も引き受けて大きな顔をするのは、セルビアのような新興国の現実かもしれないが。しかしこの悪役連中、クストリッツァ監督によってものすごく弱体化、喜劇化されて描かれ、笑いの渦に巻きこまれることによって敗北するという珍妙な結末にされる。獣姦も殺人も残酷ながら、この監督の腕にかかると笑いの拡張された領域にすっぽりとはまってしまう。顔をしかめながらも視聴者は映画というつくりごとのなかで残酷さに共感させられて、ほくそ笑んでしまうのだ。

 物語は、おじいさんの言いつけで孫の少年が牛を引っぱって町に出て行くことからはじまる。牛を売った金でイコン(聖像画)を買ってお嫁さんを連れて来いというのが言いつけだ。おじいさんが老い先短いと考えたからだが、この人、グラマーの愛人と同居していてすこぶる元気だ。またこのおじいさん鐘をみずからの手で鋳造して鐘楼もつくったりと、なんでもかんでも手製でつくってしまう。からくりやいたずらな仕掛けが大好きときて、いたるところで笑わせてくれる。手製の仕掛けはときに失敗し、ときにはハチャメチャに成功する。そしてこの「手製の仕掛け」は少年にも受け継がれて全開状態となる。見初めた美人の高校生(見かけは大学生の雰囲気で、12歳の少年からすると随分年上)を「お嫁さん」にすべく彼女の一家を手助けして奮闘する。おじいさんの友人の孫にあたるスキンヘッドの兄弟とも協力関係を築きあげる。この兄弟も「手作りの仕掛け」が大好きときている。青年らしいセックスへの興味も少年と共有して行動する。最初は彼らは悪人グループと仕事仲間であったのだが、少年の兄弟同様に味方になってしまう、その経緯は忘れた。手前勝手だがそんな細部は忘れてもいいのだ。

 最初に出てくる目覚まし時計の仕掛けがおもしろい。寝過ごすとパチンコ球が頭に落ちてくる。あっ痛い、と視聴者は思うが、痛覚なるものはここだけで、その直後少年が「復讐」して、寝ているおじいさんのベッド全体が起き上がっておじいさんが壁に頭をぶつける、ここではもはや痛覚は視聴者の思いから消し飛んでいる。別の場面では煉瓦が人物の頭に落ちてくるが、ここもおもしろいだけで痛くない。それに見世物小屋の大砲から飛び出した芸人が映画の最中ずっと空を飛び続けるのも記しておかなくてはならない。これは童話だ、喜劇だという断りで、気持ちよさそうにすいすいと空を駆け巡る。スラップスティック・コメディといってもいいのか。だが、見下したニュアンスがそこに含まれるとしたならちがう。猥雑で、残酷なことや悲劇があっても、右往左往しながらもおもしろく生きていこうぜ、元気の源はおれたちにあるぜという自信に満ち溢れた映画だ。今年劇場で見たなかでは、私的にはいまのところベストワン作品である。

[補注]音楽がまたすばらしい。エミール・クストリッツァ監督作品ではおなじみの故意に音程を外した金管を中心としたリズミカルな音楽が全編に鳴りわたる。今まで以上の激しさだ。セルビアに根ざしたものか、クストリッツァ監督のオリジナリティによるものかはわからないが、『スラムドッグ$ミリオネア』に匹敵する軽快さと力強さがある。

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