大洋ボート

チェンジリング

 北朝鮮に誘拐拉致された横田めぐみさんのことを思い出した。かの国の公式発表ではめぐみさんは既に死亡したことになっているが、ご両親は生存の希望を捨てていない。送られてきた「遺骨」がDND鑑定の結果別人のものだと断定されたのをはじめ、「死亡」情報がことごとく未確認かつ信用できないものであるからだ。ご両親はなにがなんでも死亡説を排斥するのではないと思う。情報が確実なものでないかぎり、みずから諦めることはしないのだ。当然とはいえ、忍耐強い立派な態度表明だと思う。それと誘拐された直後のめぐみさんの写真が北朝鮮によって公開されたときは、なにかしら暗闇に灯りが一瞬ぽっとともったような気になった。その写真によって少なくともその期間だけは生きていたことが如実に証明されたからだし、空白が一部埋められたからだ。外側から見てもそのときにご両親にはたらいたであろう感動を思うと、肉親の情というものがたいへん神々しいものに見えた。手をのばせば我が子をつかまえられそうな気がしたのではないか。あまり詮索するのも失礼になってしまうが……。

 とにかく、私はこの映画の主人公アンジェリーナ・ジョリー演じるシングルマザーに横田さん親子に対するとまったく同質の思い入れをさせられた。最後近くで誘拐された息子の行動が鮮明にあかされる場面では何度も書くが、北朝鮮に渡った直後のめぐみさんの写真を連想せずにはいられなかった。またアンジェリーナ・ジョリーは誘拐され行方不明となった息子の生存を生涯かけて信じようとする。それを彼女は「希望」という。ここも横田夫妻と同じなのだ。

 クリント・イーストウッド監督の映画作りは今回もまたたいへん巧みだ。二転三転するストーリー展開も流れる水のようで全く無理がない。つまずくところがなく驚きのパンチを浴びせられながらどんどん吸い込まれていく。誘拐された息子が無事保護されたとの知らせを受けてとんでいくアンジーだが、息子ではなくまったく別の子供だ。押し付けられるようにその子を引き取ったものの、当然我慢ならない彼女は担当の警察に猛抗議する。しかしながら警察は頑として相手にしない。まったくあきれるばかりの対応だが、それだけにとどまらずアンジーを精神病院に強制入院させてしまうのだ。さらに一見まったく別の物語があらたに進行する。少年を大人数誘拐し殺害する殺人鬼の話で、まさに身の毛がよだつ世界だ。

 時代は一九二〇年代後半でマヒィアが幅を利かせていた時代だからだろうか。映画に描かれた警察の腐敗ぶりは眼にあまる。教会やマスコミが批判精神を持ち合わせていたことがせめてもの救いであり、共産主義ソ連よりはましということになるのか。また組織全体が腐敗に染まっていればそのなかの個人も引きずられる。上司の命令にしたがうことが仕事の遂行だと合点して特に疑わなければ「良心の呵責」など微塵も感じられなくなる。この映画の警察は手柄をでっちあげたかったようだ。そこに綻びが見えはじめても官僚機構の悪弊で、一旦公にくだした判断はよほどの大きい圧力が加わらないかぎりは変更しない。どっぷり漬かってしまうと悪事をやらかしているという意識すらなくなるのか。担当警部の俳優は、これらのことを想起させて好演だった。

 好演といえば、つねに浮ついた態度から抜け出せない、またそれだけ切れやすそうな死刑囚もそうだし、なによりも子役俳優だ。子供は大人よりも弱い、抵抗できない。だが大人の無慈悲な要求に屈する一方で、抵抗心だけは失いまいとする。罪の意識も持っている。恐怖によって計算によって、やむなく彼等は大人にしたがうが、不服従の意識はたえず大事にしているのではないか。生き残った少年たちは、事件によって計りしれない重いものを背負わされた。だが同時にそれに対して、彼等は意識的に歯向かっていく長い時間がのこされたのだ。その作業もまた彼等にとって、映画を見た私たちにとって「希望」といえる。

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2009.04.11 Sat 21:42  |  seha #-
なおさん、コメントをあやまって削除してしまいました。もうしわけありません。よろしければ、もう一度、お書きください。
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