大洋ボート

セブン(1995/アメリカ)

セブン [DVD]セブン [DVD]
(2007/11/02)
ケビン・スペイシーグウィネス・パルトロウ

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 猟奇的連続殺人事件がテーマだが、やがて明らかになる犯人像にかなり違和感をおぼえた。ちょっとちがうんじゃないかというのが第一印象だ。犯人はサイコパスであるようだし、それとともに動物的なエネルギーをもてあますくらいの行動性ゆたかな人間、あるいは異常なまでのいたずら好きな、つまり殺人をもいたずら視しておもしろがる人間ではないか、そういう推察を前半部において私はしたのだが、見事に肩透かしを食らった感じがした。思想的な意味では確信犯にあたることは私の推察どおりであったが、犯人はまるで落ち着き払って静か過ぎる。というよりも抜け殻そのものだ。連続殺人はもとより、刑事のブラッド・ピットと銃撃戦を演じて街中を走り回るのだが、そんなエネルギッシュな行動のかけらもこの犯人からはうかがえないのだ。また、それ以前に、こんな大仕掛けな連続殺人をたった一人ですべてやりぬいてしまうことに、映画とはいえたいへんな不自然さを抱かざるをえなかった。黒沢明監督の名作『天国と地獄』では犯人は複数だったが、何の違和感もなかったのを思い出す。

 とはいえ前半部はたいへんに新鮮かつ衝撃的で、百点満点に近い出来だと思う。とりわけ最初の事件の被害者の惨状は「猟奇」そのもので、十分に顔をしかめさせるものがある。保存された殺害現場におもむくブラッド・ピットとモーガン・フリーマンの両刑事だが、真っ暗闇の部屋の中を懐中電灯で照らし出す。それがおそるおそるでもないが、視聴者はそんな感情を自然に呼び覚まされる。椅子に座らされてテーブルのスパゲッティの皿に顔をつっこんだ状態での死である。さらにテーブルの下を懐中電灯の光がさぐっていくと両手と両足がチェーンで縛られている。解剖所見によると死因はスパゲッティを咽喉につまらせたことにある。当然事故ではなく、犯人に「これでもかこれでもか」という具合にスパゲッティを食べさせられた、つまり過食の拷問にかかったのだ。被害者はスパゲッティが大好きな大食漢でいちじるしく肥満していた。棚にはスパゲッティ用のソースの大きな缶が並べられてあった。なんとも凝りに凝った殺人の態様である。犯人は何を意図してのうえなのか、さっぱりわからない。それだけに興味津々といったところ。

 第二の殺人において、犯人の意図がおぼろげながら浮かび上がる。被害者は弁護士だが、死体の傍の床に「BLEED」と血染めの大きな文字が記されていたからだ。宗教的教条を意味する言葉で、モーガン・フリーマンは図書館へ行って資料調べにあたると、キリスト教の「七つの大罪」につきあたる。それを当てはめると第一被害者は「暴食」第二被害者は「傲慢」の罪に該当する。ちなみに残る五つの「大罪」は、今調べると「嫉妬」「色欲」「怠惰」「貪欲」「憤怒」であるそうな。

 さらに犯人は捜査陣を愚弄するように暴れまわるのだが、それとともにデヴィッド・フィンチャー監督は両刑事の日常も描く。ブラッド・ピットはその地区への新任で、先輩格のモーガン・フリーマンを自宅に招待して一緒に食事する。ブラッドの妻のグウィネス・パルトロウは引越しからまもない頃で落ち着かない様子だ。その住宅が電車が通過するたび揺れるという設定も、小さな不安を浮き上がらせてうまい。さらにグウィネスは後日モーガンに直接電話をして不安を訴える。私はこれをまったく別の意味に勘ぐった。もうひとつの場面、ブラッドが犯人からの微弱なベルの電話を捜査陣が揃うなかでいち早く聴き取るところと併せて、もしかしたらブラッドが犯人ではないかと疑ったのだ……。そういういわゆる自作自演の映画も多いから。ここはどうか、不安を増幅させる効果をうまくあげているといえないこともないが、反対におもしろくしすぎてクライマックスにおけるネタバレにつながっているともいえるのではないか。

 最初にこの映画に対する不満を記したが、それをのぞけばサスペンスとしては濃密な印象を残す傑作であることはたしかだ。クライマックスの砂漠の場面は一見雑なようだが、終結部のロングショットは、最初の殺害現場の被害者を舐めるようなカメラワークと見事に対をなしている。それに最初の部分のそぼ降る雨。ブラッドが買ったコーヒーの紙コップを見張りの警官に渡して現場に急ぐ。これも印象にのこる。

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Comment
2009.03.14 Sat 23:40  |  seha #-
> 神を軽んじ堕落した現代で、世間に「七つの大罪」を想起させ、自らが殺される事で「殉教者」となろうとしたのが本作の犯人の意図。
> 極めて「現代っ子」なブラッド・ピット演ずる刑事が激情に駆られて犯人を射殺してしまい、「図らずも犯人の意図を汲んでしまった皮相」というのが、ワシの本作に対する感想でした^^

prik_ki_nuu さん、こんばんは。
なかなか深い洞察力だと思います。私はそこまでは思いがおよばなかった。
犯人のセリフを吟味すれば、そういうことになるのかもしれませんね。
それにしても、犯人を演じた俳優、有名な人ですが、
さぞかし、やりにくかったのではと推察します。
「ユージュアル・サスペクト」だったか、あれは喜んで引き受けたんだろうなと、思いました。

Re: こんにちは  [URL] [Edit]
2009.03.14 Sat 02:15  |  prik_ki_nuu #-
訪問履歴からやって来ました。
お題の「セブン」ですが、面白かった映画の一つですね^^

キリスト教はその隆盛に於いて、自らの生命よりもその教えに殉じた者を「聖職者」とし、至聖と称えて語り継いでいます。
例えば、聖ジョージのドラゴン退治とか、枚挙に暇がありません。

神を軽んじ堕落した現代で、世間に「七つの大罪」を想起させ、自らが殺される事で「殉教者」となろうとしたのが本作の犯人の意図。
極めて「現代っ子」なブラッド・ピット演ずる刑事が激情に駆られて犯人を射殺してしまい、「図らずも犯人の意図を汲んでしまった皮相」というのが、ワシの本作に対する感想でした^^
こんにちは  [URL] [Edit]







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