大洋ボート

カフーを待ちわびて

 マイコという新人女優の発する上品でピュアな空気が素敵だ。そしてそれをとまどいながらもしっかりと受け止める玉山鉄二。真っ青な海と山と緑がうつくしい沖縄の小島の風景。この前半部がものすごくいい。緻密に構成された『おくりびと』よりもこの部分だけをとりだせば、こちらのほうが優れている気さえする。見ておいてよかった。

 玉山鉄二は小さな雑貨店を生業としている。おばあさんと同居しているが、血のつながりはない。おばあさんはユタと呼ばれる地元の祭司で、子供のころ母に捨てられた玉山の面倒を引き受けたようだ。そこへマイコがいきなり「お嫁さんにしてください」と本土からやってくるのだ。玉山は初対面だが、彼が本土に行ったとき、辺鄙な神社に「花嫁募集」の絵馬を飾りつけたのを彼女が見たからだ。名前と住所もそこに明記されていた。玉山は、戸惑うが同時に先に記したようにマイコの発散する上品さにすっかり魅せられる。多くを語らないマイコだから何らかの事情をもっているのかもしれない。それはいずれは聞かなければならないことだ。だが玉山はせっつかない。いぶかるあまり追い返すこともせずに願いどおりに同居することになる。

 玉山鉄二はマイコに恋するが、その感情は大切にしながらも露骨に表現することはない。マイコが抱えるであろう事情を知らないからなのは勿論だが、もうひとつあると思えるのは「女性不信」とまではいかないにせよ、女性に対する不可解な思いだ。それは子供時代に生き別れになった母を思い出すからで、子を捨てて本土の男のもとへ走ったという母親失格にひとしい女性なのだが、玉山にとってはやさしい母の思い出しかなく、何かしら心の原点のようなものとしてある。だから若い女性が傍にいることが母への追憶をいっそう募らせることにもなるわけだ。追憶のなかの若い母である高岡早紀も、やさしいゆったりとした空気をかもしだす。

 つまり、玉山鉄二は女性への不可解さを抱きつつも、それを何とか氷解させようとしてじっくりとマイコと思い出の母に向き合う、そういう時間をたいせつにし、できればその時間を納得できるまで引き伸ばしたいのだ。この思いが玉山鉄二という俳優からよく伝わってくると私は思った。また沖縄のうつくしくゆったりとした風景がそういう主人公の青年の思いにたいへんに似つかわしい。
 
 だがマイコの謎はやがては解かれなければならない。「お嫁さんになりたい」という彼女の思いは嘘ではないらしい。だがなにゆえ彼女はみずからを語らないのか。おりしも島の観光開発の動きがにわかに活発になってくる。土地の買収の話もちらほら。美しい自然を守るだけでは島の貧しさを救うことができない。この現実は受けいれなければならないものだ。「みんなが幸福ななかでおれの幸福がある」という信条をかねてからもつ玉山鉄二は、島の動きに煽られるようにしてある決断を下すのだが……。後半部は、そういう島全体の動きとともにマイコに関する「謎解き」に比重が置かれることになる。ここも十分に腑に落ちる結末ではあるが、映画や小説でよく取りあげられる話でもあり特に目新しさはない。

 カフーとは沖縄方言で、幸せまたはいちばん大切なものというふたつの意味をあわせもつ言葉だという。マイコは夏にふさわしい白の上下を着て、旅行バッグをさげ日傘をかざして島の小道をゆっくりと歩んでくる。まさにカフーがやってくるように見える。
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玉山鉄二、マイコ主演の『カフーを待ちわびて』を新宿バルト9で観てきました。 ちょうどシネマチネ料金で観られたので、お得でしたー。 そして予感はしていたけれど、めちゃくちゃ自分好みの作品でした。作品の中盤で何度泣かされたか。。。 ******************** ... 2009.03.26 21:34
\'09.02.19 『カフーを待ちわびて』(試写会)@九段会館 これは気になった。何故なら玉鉄好きだから(笑) yaplogの試写会に応募。当選したのでバレエのお稽古サボって行ってきた! 「沖縄の離島で小さな日用雑貨店を営む明青。友達と行った神社でふざけて書いた絵馬 2009.03.14 01:58
[カフーを待ちわびて] ブログ村キーワード   沖縄の、ある小さな島を舞台にした、チョット不思議なラブ・ストーリー「カフーを待ちわびて」(エイベックス・エンタテインメント)。沖縄の自然、そして何故か緩やかに流れる時間。優しい“恋愛おとぎ話”です。   2009.03.08 21:02
□作品 オフィシャルサイト「カフーを待ちわびて」□監督 中井庸友 □脚本 大島里美 □原作 原田マハ□キャスト 玉山鉄二、マイコ 、尚玄、宮川大輔、白石美帆、勝地涼、瀬名波孝子、ほんこん、伊藤ゆみ、高岡早紀、沢村一樹■鑑賞日 3月1日(日)■劇場 TOH 2009.03.06 12:31
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