大洋ボート

母べえ(2007/日本)

母べえ 通常版 [DVD]母べえ 通常版 [DVD]
(2008/07/25)
吉永小百合坂東三津五郎

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 部分をとりだすよりも、映画全体を流れる張りつめた空気に注目せざるをえなかった。というよりも見終わった直後は部分をよく思い出せなくて困ったというのが正直なところだ。吉永小百合が顔をぐちゃぐちゃにして泣くところはすぐに思い出せるが。

 この映画は戦争の時代を描こうとしている。しかも戦場の真っ只中ではなく本土の一家庭を舞台にすることによって、それをなそうとしている。戦争やそれに関連する法規によって男手が国家にしょっ引かれた、夫で大学教授である坂東三津五郎が治安維持法で逮捕され長く拘留されるのだ。吉永小百合は悲嘆するが、それを見せまいとして明るくけなげに女の子二人のいる家庭を守る。家庭が明るくありつづけることは獄中の夫の願いでもあり、吉永は何事もないようにして日常を過ごそうとする。教え子にあたる浅野忠信や吉永の親戚の壇れいもそのことをよく知っていて明るい顔を忘れずに何かと手伝ってくれる。のちには浅野忠信も戦地に赴くことになるが。

 坂東三津五郎にもしものことがあったらという心配が、吉永ばかりでなく浅野にも壇にも共有されていて、しかもそれを表面上は見せまいとする意識も同じだ。これがセリフや映像のハイライト的な部分によってではなく、映画全体から醸し出される。夫をみずからの手で取りもどすことはできない。その点では吉永は無力である、その時代は同じく誰もが国家体制に対しては無力である。だがしょげてはならない、怒りすぎてもだめだ。ときにそういうことがあっても、すぐに意識を修正しなければならない、できるだけ平静に明るく。だが心の奥底では主要な人物がみんな死の匂いを嗅いでいる……。そういう二重構造の空気の感覚を山田洋二監督は巧みにまた真面目に定着しえている。もっとうまくその美質を表現できないことが、私としてはもどかしいが。俳優連も勿論山田演出の意図を十二分に理解していると見える。

 戦場の地獄絵図を描くことも当然映画の使命としてあるが、下手をすると安っぽい見世物になってしまう。また戦場や大災害の体験者はわが日本では少ないのが実情ではないか、私もそうである。「平和ボケ」はいいことだと思うが、そういう日常の時間帯から戦場の核心を想像することが困難な時代かもしれない。ただいえることは、戦争とは国家が人を拉致して死なしめるもの、しかも大量の人を死なしめるもの、遺された肉親。友人を悲嘆に突き落とすものであるということだ。この範囲では想像できる。その思いをあらたにさせてくれた映画だ。
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