大洋ボート

赤い花

片側二車線計四車線の車道を戴いた橋は堂々としていた。そこを車が一向に通過する気配がないのは、向こう側の広大な埋め立て地に何一つ施設も建物も見あたらないからと思われたが、そのためにかえって橋は、堂々とした佇まいを誇っていたと言ってもいい。暫くは蛇のようにのびたあと陽光を浴びて光る剥き出しの土の広がりの真ん中で、まるで蒸発したようにその道路は消えていて。

私はその橋の脇にあるもう一つの小さい橋である歩行者専用橋を散策していた。人がようやく擦れ違えるくらいの幅しかなく、しかも両側には川の眺めをほとんど隠すほどの樹木が執念深いほどに植えられていて、秋だというのにその葉と花だけは夏の日のような尖った陽光の照り返しを放散していた。何という種類の植物かは知らないが、葉のひとつひとつは小さいが茶の葉のようにぶあつく艶があった。花はそういう葉叢のなかに葉と同じ大きさのものとしてあり僅かしか見あたらなかったが、人の心の純真さを思わせるほどの純粋な赤色を可憐に放ち、私を刺激した。私はうっとりと花に見とれた。だがそれほど長くは私はそこにはいなかったにちがいない。散策する人にもまばらではあるが出会ったのであったが。またその歩道橋はまるで吊り橋のように、あるいはそれよりももっと中央部が、両岸との接点の高さに比べていちじるしく逆アーチ形に落ち込んでおり、私はふりかえって眼を見はったものだったが。

私はいつか車中の人になっていた。ウェディングケーキの支柱のような高架道路の支柱を上下左右におびただしく潜り抜けながら、信号の色の移り変わりにフロントウィンドウを擦りながら、果物をぶつけられながらせわしなく家路についた。私は歩道橋の花のイメージが頭から離れなかった。もういちど見たかった。日没まではだいぶ時間があり、歩道橋にはそれまでには余裕をもってたどり着けることができたのだが、一人で行くのは気がすすまなかった。妻を誘ってみたが、外出嫌いの妻は案の定断った。すると私も行く気が失せた。もうその直後から、私は赤い花を忘れた。
関連記事
スポンサーサイト
    00:35 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
Comment







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://oceanic.blog70.fc2.com/tb.php/24-1e845f31
プロフィール

seha

Author:seha
FC2ブログへようこそ!

カレンダー(月別)
07 ≪│2017/08│≫ 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
カテゴリー
月別アーカイブ
全ての記事を表示する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
ブロとも申請フォーム
ブロとも一覧
ブログ内検索
RSSフィード
リンク