大洋ボート

アリゾナ・ドリーム(1992/フランス)

アリゾナ・ドリームアリゾナ・ドリーム
(2007/04/01)
ジョニー・デップジェリー・ルイス

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 瓢箪から駒という言葉があるが、この映画に当てはまる。もうすこし意味合いをしぼれば、冗談や遊興から真実にたどりついてしまうということだろうか。ひとつは恋愛であり、もうひとつは死である。やたら騒々しく、人や物や動物が動き回って落ち着かない、けれど何かが生み出される気配があって、気がつくと動かしがたい核につきあたる。そういうエミール・クストリッツァ監督の独特の世界が見事に結実している。

 さらに記しておくべきは、この映画の主要人物をおびやかす強迫観念らしきものの存在だ。現在の自分の生は人の犠牲のうえに成り立っている、そこからさらに進んで、より積極的に生きようとすれば邪魔な人間を排除しなければならないのではないか、だがいったん動き出すととめることができない……。

 大型車キャデラックの販売会社社長のジェリー・ルイスは交通事故を起こして兄弟とその妻を死なせて自分だけが生き残ってしまった。後悔にさいなまれる彼は、できればその一粒種の甥っ子ジョニー・デップに事業を引き継がせたいと願っている。だがジョニー・デップは販売店を訪れたフェイ・ダナウェイに一目ぼれして仕事を投げ出して、彼女の家にすっかり居ついてしまう。ややこしいことにその家には先立った夫の愛娘のリリ・テイラーがいる。フェイは継母であるし、それがなくても二人は犬猿の仲。リリはペットの亀のように動きがのろくても堅実と質素を旨とする人で、貞操も堅い。一方のフェイは「イカレタ女」と陰口されるように浪費家で、若い男が好きで関係をつくるのも早いときている。さらに飛行機作りを夢想する。この一家はブルジョアのようだが、リリがフェイの暴走を食い止めることで成立しているらしく見え、質素な暮らしぶりだ。夫(父)の死によってこの「家族」もまたあらたな段階をむかえて、あやうい均衡のもとに保たれているのだ。そしてジョニー・デップは叔父の思いも痛切に知っているし、フェイとリリの間に入った自分が火種になるであろうことも知っている。だが勢いで突き進んでしまう。それにつれて先に記した強迫観念がジョニーのなかに集約されてしだいに増大していくのだ。

 だが恋愛の大いなる力を描き出すのもこの映画の偉大さである。恋愛に没入してしまうと幸福以外に何も見えなくなる、またその幸福には日々増大していくような進行感覚があるのだ。ジョニーは自分の世界や主張にフェイを引き寄せるのではなく、逆にフェイの世界に没入し、奉仕する。フェイの夢である飛行機制作に日々を浪費する。これが失敗の連続だが、こんなにも楽しい世界はないという空気が驚くほどの実感をともなって伝わってくる。フェイ・ダナウェイが役柄にすっかり溶け込んで素晴らしいのだし、手製飛行機が跳躍台から離陸しようとしてはガクンと頭を垂れてひしゃげてしまう場面の繰り返しもこれまた素晴らしい、痛快だ。浪費と遊興の世界だから失敗ほど楽しいものはないといわんばかり。逆に、ジョニーがしばらく留守にして帰ってきたときのフェイ・ダナウェイのメランコリックで気ちがいじみたジョニーに対する態度も、ああ、女性が恋するとはこういうことか、納得させられる。憤りを鎮めるどころかそれを故意に長引かせて相手の男に少しでも打撃を与えようとする、復讐しようとする、わからないことをまくしたてて困惑させる。

 リリ・テイラーはこの二人に執拗につきまとい妨害する。飛行機をハンマーで壊したり、二人がデートしているところに咥え煙草でアコーディオンをうるさく弾きながらちかづいたりと。彼女もジョニーが好きなこともよくわかり、顔をわざと小さくしかめてジョニーに見せる所作も納得できる。また自殺を試みることも何度か。だがこういうリリの行動にもジョニーとフェイはいっこうにふりむかない。というより理解できないのだし、する気もない。恋愛の最中はそういうものだ。リリは刺身のつまにしか見えないのだ。そういうリリにもやがてジョニーは目を向けはじめるが、悲劇はやはりやってくる……。

 エミール・クストリッツァ監督の描き出す日常世界は、死が近接している。近い過去にも未来にも死が口をあけて待ちかまえている。彼の故郷であるセルビアはこの映画の製作されたころ、旧ユーゴスラビア内戦の最盛期であっただろう。直接的ではないにせよ、それと本作が無縁だとは思えない。さて、もう筆をおくころあいだが、この映画の魅力はまだ語りつくせない。枝葉の部分にもほんとうに楽しい要素がつまっている。
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