大洋ボート

東野圭吾『容疑者Xの献身』

容疑者Xの献身容疑者Xの献身
(2005/08/25)
東野 圭吾

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 作者東野圭吾によって読者はたいへんあざやかな騙され方をする。それが心地よい。小説の進行にしたがって私もうすうすトリックに気がついたが、まさかここまでの展開が待っていようとは。

 警察が事件を知るのは三月十一日の早朝で、旧江戸川堤防沿いで青いビニールシートに掛けられた死体が散歩で通りがかった人によって発見された。死体は全裸で、顔はハンマーで砕かれて特徴を判別できなかった。また手も焼かれて指紋が消されていた。鑑識は首に紐の跡があったことから死因は絞殺によるものと断定した。さらに殺害現場付近からは盗難自転車と、一斗缶に入った燃え残った衣類が発見された。衣類は被害者のものと推測されて、警察は被害者の体格にその衣服を着せたイラストをつくって公開捜査した。まもなく被害者は判明した。レンタルルームの管理者が覚えていたためで、宿帳から富樫慎二なる人物が浮かびあがった。部屋の指紋と盗難自転車の指紋とが一致した。また死亡推定時刻は前日三月十日の午後六時以降とされた。

 だが物語の順が前後するが、私たち読者は富樫慎二が殺害される場面をありありと読まされるのだ。富樫を殺した犯人は富樫の前妻の花岡靖子と靖子の連れ子の美里という中学生である。何回も靖子に金を無心しにくる富樫だったが、アパートに直接乗りこんできたのを、たまりかねた親子が炬燵のコードで絞殺してしまったのだ。途方にくれる母子だったが、そこに思わぬ助け舟があらわれる。となりの部屋の住人で数学教師の石神という男だ。物音を聞きつけて一部始終をあっという間に理解したうえで偽装工作を請け負うのだ。彼のその動機は靖子への一方的な恋心である。小さな弁当屋に勤める靖子のもとに、石神は毎日のように弁当を買いに来ていた。靖子も石神を知っているが、彼の秘めた思いにまでは気がつかない……。石神は富樫の死体を自分の部屋にあわただしく運びこんでから、靖子と美里の母子にあれこれ行動の指示をする。警察への対応策もそこには当然ある。ただ石神が死体を以後どう処置したかは、読者には隠される。 

 つまり読者は犯行と犯人と偽装工作の着手とその結果(すべての過程ではない)をあらかじめ知らされていて、あとから警察の操作網が靖子母子にしだいに絞りこまれていくさまをスリリングに読まされる。たとえば堤防で発見された死体の死亡推定時刻における母子のアリバイを探りにくる、というように。だが、単に倒叙形ミステリーとは呼べない。「偽装工作」の域にとどまらない凄い展開が待っている。またそれをも偽装工作と呼べないことはない。ネタばらしができないのでまだるっこしい言い方になってしまうが。

 好きとはいえデートを一度もしたことのない女のために、それも犯罪者のために手助けをし深入りする石神は常軌から大きく外れた人間だが、同情にも誘い込まれる。さらに事件のことを何も知らずに靖子に健全そのものの求愛をする工藤という男も登場させるが、これがたいへん対照的で、かえって石神の人格をきわだたせる。このへんのお手並みも東野圭吾は鮮やかだ。
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