大洋ボート

思い出したくなった詩

 子供のころ、父が飲みおわったビールのラベルを爪で剥がすのが好きで、よく遊んだ。当時のラベルは紙製で、冷えたビール瓶の付近の水蒸気が冷やされて水滴となって瓶の表面に溜まる。するとラベルの紙も水を吸い込んで重くなり、場合によっては自然にずり落ちてくることもある。そうでなくても紙と瓶の接着があまくなって剥がしやすくなるのだ。他愛ないが、こんなことを今の季節になると思い出す。

 父が死んでからは、私が飲むときは中瓶タイプに変えた。これは紙のラベルではなく瓶にプリントがされていた。さらにその後は缶ビールになった。大瓶タイプにはまだ紙ラベルが使われているのか、何故か見かけることがないので知らない。

 田中冬二にこのことが書かれた詩があったはずだ。ただし映像でしか覚えていないし、ほかの部分はすっかり忘れてしまった。ほかの詩人の詩と併録された詩集を本棚から出してきた。「虹」という題名の詩だった。

夜半 雨を聞いた朝

裏二階の窗(まど)をあけると
山の傾斜地の林檎園の上に
うつきしき虹

投げ入れへ夏蕎麦の花と芒(すすき)と

台所の冷蔵庫の中 麦酒壜のレッテルは濡れておちている


 
 都会のたとえば団地の室内を私は勝手に思い浮かべたりしたが、ちがっていた。リンゴ園のみえる緑豊かな地方の風景、ならびにその地の室内である。屁理屈をいうと、冷蔵庫のなかへ入れただけではビール瓶のレッテル(ラベル)は剥れないと思うが……。冷えた瓶を高温の外気にさらして、はじめて濡れてくるのではないか。それとも、もしかすると電気冷蔵庫が普及する以前の、大きい氷を入れておく冷蔵庫かもしれない。冷気は氷が解けるまでの寿命であり、そののちはしだいに庫内の温度があがるから、理屈は合う。

 そんなことよりも、田中冬二はレッテルの剥がれかかった(あるいはほとんど剥がれてしまった)「麦酒壜」にこの詩では随一の詩的興趣を見出したのだろう。短いが、最終行をもって詩はひき締まっている。

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