大洋ボート

シークレット・サンシャイン

 この映画のチョン・ドヨンのような女性は、身近にいる気がする。潔癖症で気位が高い、やさしいようで冷たい、そしてそのことを彼女自身意識していない。かといって性格破綻者というわけでもなく、滅多なことがなければ市民生活をとどこおりなく送ることができる。ひとことで言い表すのが厄介な存在だが、私たちは実人生において、彼女のような人にすでに接したことがあるような感覚をおぼえる。そういうチョン・ドヨンの人となりを浮き彫りにするのがこの映画の狙いで、悲劇あり、恋愛ともいえない恋愛がありで、それらを通過してやがて精神を病んでしまう姿を冷徹に追跡して、大いに成功している。

 チョン・ドヨンは一人息子をつれて、亡き夫の故郷の町「密陽」にやってきた。そこでピアノ教室を開いて新生活を始めるためである。途中で車が故障し、自動車修理の自営業者のソン・ガンホに助けてもらうが、彼はその後もチョン・ドヨンのために何かと世話を焼きつづける。場所やピアノ教室の生徒を探しだしたりと。ソン・ガンホは三十代後半の独身者で、チョン・ドヨンにおそらく一目ぼれの状態だ。だがチョン・ドヨンは彼の親切を受け入れ交流をつづけるが、彼を恋愛の対象としてはまったく見ようとはしない。何故か、彼女の弟はソン・ガンホに「あなたは姉の好みのタイプじゃない」と笑いながら忠告する。ソン・ガンホは愛想笑いを返すのがせいいっぱい。ソン・ガンホは韓国を代表する俳優の一人だが、決してハンサムではなく、顔が四角いがっちりタイプだ。チョン・ドヨンがどう考えるのか、映画では明らかではないが、とりあげたようなことで推測するしかない。

 ソン・ガンホも不思議で、男性としてはなかなかマネができない接し方をする。チョン・ドヨンにまともにプロポーズもせず、かといって諦めてとおざかるのでもない。彼女の傍に居られることだけで幸福そのものといった風情だ。女性の美貌に惹かれてか、こういう生き方をする人もいそうだ。

 そんな中、息子の誘拐事件が起こり、身代金要求の電話がチョン・ドヨンにかかってくる。いても立ってもいられない彼女はソン・ガンホのところに駆けつける。だが、当然何も知らない彼は一人でカラオケに興じている。その様が戸の透明ガラスの向こうにはっきり見える。それを見たチョン・ドヨンは何故か踝を返してしまう。ここははっとする映像で、映画中でいちばん印象に刻まれる場面だ。やはり、ほんとうの親密さは醸成されていないのか、彼に対する冷淡さの表れか、解釈としてはそういうことだろうが、この行動はチョン・ドヨン自身にさえも予想外にちがいない。

 事件は最悪の結果に終わってしまい、やがてチョン・ドヨンはキリスト教信仰に救いを見出そうとするが、ここでも彼女はつまずく。地元の信仰者にいくら親切にされ慰められても、どうしても受けいれられないことが生じてくるのだ。詳述はしないが、彼女は神は自分の家族のような存在だと見做してしまった。世界を見下ろすかにみえる神の位置から彼女もまた人々を眺めようとした。無意識のうちにそうなってしまった。だが神や信仰は万人のもので、誰でも神に許しを請い、信仰が深まればようやく許されたと思える境地に達することができる。だがチョン・ドヨンは自分や家族の問題に関しては、許すことができるのは自分以外ではありえず、他者には断じてその高い位置を認めようとはしないのだ……。

 物語はまだあり、チョン・ドヨンは荒れるが、ソン・ガンホは親切そのものの姿勢で彼女を守ろうとする。題名の「シークレット・サンシャイン」は町名の「密陽」の直訳であるが、ドヨンにとってのソン・ガンホのことでもあろう。だが彼女は最後まで気づかないのだ。

 チョン・ドヨンという人を見るのははじめてだが、いい女優だ。はっきりした不道徳さはないが、気位が高く、普通の人とは言えない、何処かずれている。それでは「普通」とは何かをあらためて考えなくてはならない。そういうところにまで視聴者を引っ張りあげてくれる映画であり、彼女の力演であった。自叙伝かと思えるくらい役になりきっていて不自然さがまったくない。

関連記事
スポンサーサイト
    22:19 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
Comment







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://oceanic.blog70.fc2.com/tb.php/199-71e03bd0
プロフィール

seha

Author:seha
FC2ブログへようこそ!

カレンダー(月別)
06 ≪│2017/07│≫ 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
最新の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
カテゴリー
月別アーカイブ
全ての記事を表示する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
ブロとも申請フォーム
ブロとも一覧
ブログ内検索
RSSフィード
リンク