大洋ボート

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

 冒頭からのセリフ無しの数十分が気に入った。石油を掘り当てることで一攫千金を夢見る男ダニエル・デイ=ルイスが砂まみれ泥まみれになって竪穴を掘り進んでいく。たった一人でだ。つるはしで岩を砕き、ときにはダイナマイトを仕掛ける。粗末な櫓にとりつけたロープを伝って地上に這い上がるが、ドスーンと転落することもある。そんな彼だが、ひとにぎりの金鉱石を発見して売却し一息つく場面ではこちらもほっとする。目的をもって人が具体的に行動するさまを、カメラが腰を落として追う。いかにも映画らしい数十分だ。何年か前に見た「ククーシェンカ」を思い出した。フィンランド兵がロシア兵によって足を岩に鎖で繋がれるのだが、それを試行錯誤のうえ自力で爆破する場面だった。

 ダニエル・デイ=ルイスはやがて石油を掘り当てる。雇用人も一人二人と増えていく。さらに彼は広大な土地買収に乗り出してそこでも石油を掘り当てる。そして事業が成功裡に進展するにつれて、彼の押しかくしていた欠損意識があらわになる。血縁者への飢えと情、さらにはその裏返しとしての非血縁者への凶暴なまでの憎しみと冷酷さである。焦眉の課題がアメリカンドリームの実現、経済的成功であったものが、それができてしまうと別の負の意識がもたげてくる。これはよくあることだが、無論、物語の展開が彼に危機を到来させるからで(たとえば油井のガス爆発事故や放火)負の意識によるそれらの決断は刹那的であくまで事業優先で、とても理性的とはいえないものだ。だがそれが彼の生き方である。彼はやがてみずからの決断を表立って悔いるときがくるが、これもやはり事業がらみである。土地買収をめぐって、その土地の所有者が地元の若い神父の前にひれ伏してくれるように頼む。デイ=ルイスはその神父の口利きで一帯の土地を手に入れたのだが、事情あって疎遠になっていた。だがデイ=ルイスは土地所有者の頼みを受けいれる。神父の仮借ない悪魔祓いの儀式につき合わされ、人々がすでに知っている悪行を告白させられ、地元参加者の面前で屈辱と涙を味わされる。そうしてようやく土地を手に入れる。

 だが神父もまた信仰よりも経済を優先させる男であることをデイ=ルイスは知ることになる。時代を経てのラスとシーンだが、神父は居直り、自己破壊ととれる発言をあけすけにやらかす。このときのデイ=ルイスの怒りと喪失は深い。デイ=ルイスは行き着くところは信仰しかないとひそかに確信するようになっていた。そうした心境変化がうかがわれるからだ。

 ダニエル・デイ=ルイスはいかにもたたきあげの実業家といった人間像を力強く演じている。喋りにくそうでありながら言葉をはっきりと意識して前に押し出す。人に聞かせようという意思が聞き手によく伝わる。こういう喋り方、一昔前の日本の国会議員によく見かけられた。

 もうひとつ。子供時代の息子が放火する場面がたいへん不可解だった。爆発事故ですでに聴力を失っていたのだが、デイ=ルイスの腹違いの弟を自称する人物の鞄をあけて覗いたとき、そこにはたしかに弟自身の古い日記帳があった。それによって「弟」が贋者であることを見抜いたつもりだったのか、それとも本人であることを確信したことによってか、つまり息子のみずからの血への疑いを土台にした「兄弟」への激しい嫉妬だったのか。この謎もかえって魅力的だ。

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