大洋ボート

王妃の紋章

 『HERO』『LOVERS』につづくチャン・イーモウ監督の古代中国王朝もの。大がかりなアクションが売り物で、王家内部の愛憎劇がやがて内乱的な抗争に発展する。前二作に満足した人ならば、それ以上の満足度をえられるのかもしれないが、私はもっと以前の『初恋のきた道』や『あの子を探して』などの非アクション系のほうが好きだ。

 それはともかく、衣装やセットが金色を中心にした原色のキンキラキンで、絢爛豪華そのもの。たっぷりと予算が注ぎこまれていると想像される。宮廷内の廊下や壁、柱には単に色彩の眩さばかりではなく、手彫りの絵模様がこれでもかこれでもかというくらいに施されている。圧倒されるというよりも、画面全体がむせ返るようで、私などはかえって引いてしまうくらいだ。私は画面全体よりも画面の小さな部分の美を、たとえそれが画面全体であっても映画の時間の経過のなかでのわずかな時間であるほうがしっくり来るが、好みの範囲の問題だろうか。だが異彩をはなつところもあった。王妃のコン・リーはじめ、女官の衣装が全員そろって胸を大きく開いて乳房のふくらみを強調したもので、若い人ばかりなので、なんと言うのか胸のラインダンスである。五代十国の時代にこんな衣装が存在したのか、たぶん大胆にデフォルメされたのだろうが、おもしろい。

 クライマックスはちがう色の甲冑を着た軍団同士のいくさであるが、『HERO』以上のエキストラの大量動員で、ゆっくり前進するさまはまるで大河の流れのようで、うねりとどよめきが立ちのぼってくる。その一方では人間一人一人はまるでチェスの駒のようにちっぽけに見える。人間一人の力なんてほんとに小さいし、大軍団のなかに入れば頼もしいし、また運命をともにしなければならない……。俯瞰の位置からのカメラだから自然にそういう印象がもたらされるのだろう。見ものだが、新しさという点ではどうだろうか。ともあれ人件費の安価であろう中国映画ならではのこれも贅沢さだ。

 それよりも私の眼にあざやかだったのは、王のチョウ・ユンファと王子のジェイ・チョウが真剣でぶっつけの演習を行う場面だった。殺陣である。カメラワークもあるだろうが、両者の太刀さばきが熟達していてたいへん巧妙に見えた。それに太刀が甲冑をこするときに起こる火花、細部の創造でこれはうなった。日本の時代劇はかなり追い越された観がある。

 人間劇はどうだろうか。コン・リーは実は王の前妻の子リウ・イエと愛人関係にある。しかもリウ・イエには宮廷内に別の若い愛人がいる。さらには王の陰謀によって、コン・リーは毎日毒草トリカブトの混入した茶を飲まされているというどろどろの状態。忍者の姿をしたいわくある中年女性もくわわり、ということでごちゃごちゃしていて筋を追うのがせいいっぱいだが、最後にはチョウ・ユンファとコン・リーのベテランらしい渾身の涙で、かろうじてスペクタクルの部門と拮抗することができたと思う。

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