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太田光・中沢新一『憲法九条を世界遺産に』

憲法九条を世界遺産に (集英社新書)憲法九条を世界遺産に (集英社新書)
(2006/08/12)
太田 光、中沢 新一 他

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 私は現行憲法を守りつづけたいと考える者であり、その点ではこの書の二人の著者と同じ立場である。理想に偏して、国際政治の冷厳な現実に対応するには不都合な面が多い、そう考える人も多数いることはもとより知っている。しかしそれならば、憲法を変えるよりも現行憲法を残しつつ、乱暴な言い方だが「解釈改憲」をやってもらったほうがまだましなのではないか、と思う。現行憲法には、政治がそこから離れようとするとき、あるいは既に離れてしまった状態に対して、憲法の謳う理想に引き戻そうとする強烈な引きバネの役割が果たせると思うからである。

 その最たる項目のひとつは自衛隊の海外派兵である。昨年までだったか、陸上自衛隊がイラクのサマワというところに「復興支援」のために派遣されていた。水道設備の敷設などを行って地元民には歓迎されたようだが、イラクの反米勢力が日本の自衛隊を「アメリカの手先」とみなして、自衛隊の駐屯地に携帯ミサイルを撃ち込むことも考えられないことではなかった。幸いにもそういうことはなかったが、たいへん危険な状態に自衛隊の人々はおかれたものだと思う。自衛隊駐屯当時の小泉首相は「イラクにおいて安全な地域はどこか」という野党議員の質問に対して「自衛隊の行くところはすべて安全である」という意味の空恐ろしい答弁をした。イラク情勢に詳しくなかったのか、また言い切る自信がなかったのか、「サマワは安全である」とは直接的には言明しなかった。こういう首相を戴きながら、自衛隊員はイラクに行かされたのだ。

 大国になってしまった日本だから、貧国や戦乱で荒れた国への国際的支援の要請には背を向けることはできないだろう。しかし血を流してまで、戦闘行為に参加してまで「貢献」する必要はない。そこまで考える自衛隊員も日本国民もきわめて少数であろうし、そういう思想と空気を日本国憲法は戦後の長きにわたって培ってきた。歴史的に見ても、朝鮮戦争にもベトナム戦争にも参加せずにこれた。日本のときの首相が「国際社会」という名のアメリカのことあるごとの自衛隊派遣要請に対して、結論はともかく一旦は渋ることができるのは「憲法九条がありますから」という答えが用意できているからである。この状態をつづけるべきだ。ただ憲法を守ったから安全を保障できる、逆に変えたからそれができるというものでもない。それをできるかぎり可能ならしめるのは政治の担当者の均衡ある判断にのみによるのだろう。

中沢 日本が軍隊を持とうが持つまいが、いやおうなく戦争に巻き込まれていく状態はあると思います。平和憲法護持と言っていた人たちが、その現実をどう受けいれるのか。そのとき、多少どころか、かなりの犠牲が発生するかもしれない。普通では実現できないものを守ろうとしたり、考えたり、そのとおりに生きようとすると、必ず犠牲が伴います。僕はその犠牲を受けいれたいと思います。覚悟を持って、価値というものを守りたいと思う。(p146)



 前半は賛成だが、後半には違和感を覚える。私は国民の生命と安全が第一に守られるべきものであり、日本国憲法もそう謳っている。そのかぎりで現行憲法の継続に賛成だ。憲法という「思想価値」を守るために犠牲を覚悟するという言い方は本末転倒に聞こえるのだが……。私は現行憲法を若干ふれたように柔軟に考えようとする者だ。憲法の護持の仕方が硬直的であるがゆえに国民の生命・安全がおびやかされるのならば、その運用方法を改めればよいのではないか。私たち国民はそのほうを望むはずだ。無論、中沢新一が指摘するように政治担当者がどうあがこうとも、憲法の運用をどうかえようとも戦争に巻き込まれることはないとはいえない。

 自衛隊について少し。これは当面は存続すべきだと思う。自衛隊は軍隊としての能力を保持しているので憲法九条違反の疑いは確かにある。だが憲法は「生存権」を明記しているし、自衛権については書かれていないが、憲法以前に本来的に国家や地域が有するものと見なす。外国の軍隊の日本国への侵略に対しては自衛隊の戦力を用いるべきであり、自衛隊以外にその役割を果たしうる組織は存在しない。だが逆に来るべき理想社会に向けて、やはり自衛隊に違憲の疑いありという看板は外すべきではない。自衛隊と憲法との私の考え方は、このように大雑把で未整理なものだ。だが強引に整理すべきではない。今のところ、私にとっては、こういう自衛隊と憲法とのあるべき関係の姿が一番すわりがよい。

 日本国民の平和への願いの唯一成文化されたもの、それが日本国憲法である。


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