大洋ボート

ノー・カントリー

 ハビエル・バルデムが解釈不能な犯罪者像を定着させている。彼がひたすら追跡するのはボストンバッグ入りの大金。目的のためには手段を選ばず、という言い方があるが、それ以上である。「誤爆」をして無関係な人を巻き添えにしても一切悔いない。「悔い」という感情が彼にはない。また目的以外に「見せしめ」のためにも人殺しをする。さらに彼は人と対等の立場に立とうとしない。そう見えるときは普段の見せ掛けで、本性は「俺はいつもおまえを殺せる」という優越意識に満ちている。しかも軍隊の優秀な兵のように行動力抜群で冷静で、肉体も打たれ強い。こういう人間性がどんな過程を経て形成されたのかはわからない。またそれを描くことがこの映画の目的でもない。外から見てとにかく無気味で、金輪際近寄らないほうが身のためだ。そういう厭な空気を瀰漫させるのがハビエル・バルデムだ。

 大金を持ち逃げするのが狩にやってきたジョシュ・ブローリンで、この最初の場面が印象的だ。広大な砂漠を俯瞰する丘から身を隠して鹿の群れに向けてライフルの照準を合わせる。だが射撃は失敗し、鹿の群れは逃げ去る。彼は丘から鹿のいた地点に下りていくが、血を流した黒い犬がなぜかそこにいる。やがて犬がよたよたと丈高い草の中に姿を隠す。さらに彼が犬を追っていくと草地はきれ、遺体が数体ころがる壮絶な殺害現場に出くわす。別の犬も射殺されて横たわっている。運転席でぐったりした男はジョシュ・ブローリンに助けを求めるが彼は冷淡だ。丘の上の樹木の影にも車が二台停車していて、そこにも死体がある。彼はその夜、もう一度現場にやってきて、ボストンバッグをようやく発見する。大量の麻薬も同時に発見されたので、どうやら麻薬取引のもつれらしい……。

 アメリカの砂漠を俯瞰図を意識して撮るのはめずらしいのかもしれないが、これが絵画のように美しく、成功している。その余韻覚めやらぬうちに無関係のハンターが偶然大金を手にするいきさつへと移行するが、これまた説得力がある。

 そのあとは、発信機をとりつけたボストンバッグを急追するハビエル・バルデムと逃げるジョシュ・ブローリンとの攻防戦、銃撃戦が延々とつづくが、スリリングながら冷ややかな感触に蔽われる。通俗的なおもしろさは十分過ぎるが、どちらにも肩入れができないのだ。力の差は歴然としていてジョシュ・ブローリンは息をつく暇がないが、彼もまったくの善人ではないため応援することにためらいが生じてくる。こういう戦いの過程を息をつめて見つづけることは果たしてどういうことなんだろう、とは私が見ながらふと思ったことである。

 保安官のトミー・リー・ジョーンズも重要な役なので書いておかなければならない。二人を追跡する彼だが、二歩も三歩も遅れる。たとえばモーテルに到着したときには血の海を見るばかりで、最後まで追いつくことができない。そのため二人に比べると影が薄くなってしまった感がある。彼自身もみずからのふがいなさに打ちのめされるのだろう。だがコーエン兄妹は、彼に彼らの良心を注ぐことを忘れなかった。彼の祖父も父も保安官だった。たぶん彼の身内たちも彼のように無力感にさいなまれながらも、前を向いて歩んだであろうことを想像し、彼もまた職務をつづけることを決意する。記憶がぼんやりしているが、そのとき道が映ったのだったか。 

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